・剣風帖で京一×主人公です。
・主人公の名前はデフォルトの「緋勇龍麻」。
・剣風帖第六話『恋唄』の話。
・それでも宜しければ続きからどぞ。
「お邪魔しまーす」
勝手知ったるなんちゃらで、龍麻のアパートの部屋へ上がり込んだ京一は、洗面台からタオルを一枚拝借すると、玄関を入って直ぐのリビングダイニングにへたり込んでしまっていた龍麻の頭にそれを広げた。
「龍麻、風呂入る気力あるか?俺もお前も煤だらけだから、入る気ないならしっかり落として置かないと後で泣くのはお前だからな」
どうする?、と龍麻の髪を拭うように手を動かす京一の耳に、御免、と一言弱々しい声が届いた。
「何が?」
「全部」
即答し、また黙り込む相手に、京一は首を傾けた。
「だから、何が?」
「…色々と、全部」
取り付く島もない。
それ以上口を開く気が更々ない事を感じ取り、京一は不意に立ち上がるとキッチンの流し台にあったボウルに水を溜め、転瞬その水を龍麻の頭に叩き突けるように被せた。
「…っ!」
「ちったぁ、頭冷えたかよ」
冷水に身を震わせた龍麻が顔を上げた。額に張り付く前髪を掻き上げ、困惑の濃い視線を投げる。京一はボウルを流し台に乱暴に放ると、腕を組んで真っ向から視線を受け止めた。
「…色々と全部だぁ?巫山戯たこと吐かしやがって…………イイ子ちゃんの答えなんて訊いてねぇんだよ」
吐き捨てるようにそう言って、次いで京一は龍麻の前に屈み込みその顎を捉えた。
「洗いざらい喋っちまいな」
顔を覗き込むと、小さくではあったが柳眉が潜められた。それに片目を眇める。
「なんだぁ?やるかぁ、イイ子ちゃん」
「京一、は…どうして、俺に構うの?」
凄みを効かせて口を開くと、龍麻が遮るように言った。
「俺、は…凄く心配も懸けた、し…面倒も、手間も、掛けたし……それなのに、お礼すら、言って…ないの、に」
「……だから?」
「だから、そんな俺に…付き合う…こと、なんて…ない…のに…………放って置けば、良かった…のに…………。――女の子一人、助けられないような…俺、なんて……」
言って、龍麻がギュッと眉を寄せた。
「きっと、また俺は、京一に…迷惑、かけるよ?……皆にだって………………そんなのは、嫌だ。嫌だ、よ……きょういち…っ」
震えが、掴んだ顎から京一の指に伝わる。
泣くまい、と。堪える龍麻の背を両腕で抱き寄せて、ぽつりと京一は言った。
「やっぱり、さっきはわざと突っぱねやがったな?」
一拍置いて、御免、と腕の中が震えた。
「俺は判ってたから別に良いさ。けど、学校行ったらアイツらには謝って置けよ。特に裏密な」
「…………うん」
「…なぁ、龍麻。お前は冷たく当たったのにどうして構うんだって言うけどよ、お前だって俺達と同じ唯の高校生のガキなんだから、たまにはムシャクシャする時だってあるだろうよ。たまたま腹の虫の居所が悪かったからって離れて行くような、そんな情の薄い関係じゃ俺達はないだろ?…それに、迷惑かけるとかかけないとか、関係ねぇよ。仲間だろ」
見上げてくる瞳に常の光が戻り掛けているのに笑って、京一は丁寧に龍麻の髪をタオルで梳いてやった。次いで両手で煤汚れた顔を包み、苦笑する。
「水。いきなり掛けて悪かったな。風邪ひくといけねぇから、やっぱり風呂入ってこいよ」
冷たい肌を温めるように何度も摩ってやると、とん、と龍麻が京一の胸に身体を預けた。手が、縋るようにシャツを引っ張った。
「……京一と、出逢えて良かった…」
ほっと、吐かれた吐息に、自然と京一の腕が龍麻の腰に回った。が、力を込めた瞬間我に返って恐々退ける。龍麻は、そんな京一の行為に気付かなかったようにヨロヨロと立ち上がると、風呂場に続く洗面所のドアを開け、やんわりと振り返った。
「出たら、話…訊いてくれる?」
「……あ、あぁ…………」
やっと少しだけ笑った龍麻に、しかし京一は強張った笑みを返すのが精々だった。――――離れてなお首筋に残る、甘い痺れを感じながら。
フラグもう一本。
うちの京一と龍麻は喧嘩出来ない(龍麻が強く出ないから)のでここぞとばかりに。でもこれくらいまで。殴り合いまでは発展しないので派手な喧嘩は出来ません(笑)
弱い子を書くのは楽しいです。あ、間違えた。弱っている子を書くのは楽しいです。
好きな救い上げ方ばかりするのでワンパターンになりがちなのがアレですけれど…。
続きます。
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