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★諸注意★
・剣風帖で京一×主人公です。
・主人公の名前はデフォルトの「緋勇龍麻」。
・剣風帖第六話『恋唄』の話。
・それでも宜しければ続きからどぞ。





――――甘い。

二回目のキスは触れただけのものだったのに、一秒にも満たないその時間で京一が感じたものは、砂糖菓子のような甘い喜びだった。

離れて、しかし直ぐにまた口付ける。

今度は深く長く、薄いけれど柔らかなそれに触れる。ちゅく、と音を立てて角度を変えてまた触れる。
頬に添えていた手を髪に差し入れ引き寄せるようにすれば、直ぐに躊躇いなく龍麻が胸に身体を預けてきた。更に深くなったキスに、縋るように両手が京一のシャツを手繰る。その仕種が愛おしくて、京一はもう片方の腕で龍麻の腰を抱き寄せた。

「…たつま……」

息継ぎの間に名を呼ぶと、うっすらと瞼を上げて、恥ずかしそうな視線を寄越す。堪らなくもう一度深く唇を奪い、漸く京一は龍麻から顔を離した。心持ち息が上がっているような龍麻の目許が桜色に薄く色着いて見えるのは欲目だろうか。

「龍麻…」

名を呼ぶと、躊躇いがちに、京一、と龍麻も京一を呼んだ。はにかんだその小さな笑みに、京一も微笑を返して優しく抱き締めた。

幸せだ、と。
感じずにはいられない。

京一はさらりとした龍麻の髪を撫でながら、抱く腕に力を込めた。

「俺、龍麻の事が好きだ」

呟くと、龍麻の両腕が怖ず怖ずと京一の背中に回された。そっと抱き返してくる腕に、京一は小さく笑った。

「今の内に突っぱねないと、お前の気持ち、勝手に良いように考えちまうぞ?」

更に力を込めて抱き締める。すると京一の肩に顔を埋めるようにして龍麻が一言、是と応えた。

「勝手に、良いように…解釈して……良いよ」
「………………やっぱやめた」
「え?」
「俺、お前にもちゃんと言って欲しい…………俺の事が、好きだって」

身体を離してしっかりと龍麻の瞳を見遣れば、途端に龍麻の顔に朱が散った。真っ赤に染まった顔が綺麗というより幼く見えて、何だか微笑ましいと京一が感じていると、今度は情けなく眉を下げて必死にこちらを見返してきた。

「…俺…も、京一が、っ…好き」

言って、恥ずかしげに瞳を細めた龍麻に、京一は無言でその身体に抱き着いた。

「予想以上にクるな……」

ボソリと呟いた科白は幸か不幸か龍麻の耳には届かず、首を傾げた龍麻に、何でもない、と返して、京一はもう一度龍麻の背を抱き寄せた。

 

 

「龍麻ぁ、塩切れそう」
「上の、戸棚、に…確か?」
「あ、あったあった」

塩を容れて置くタッパーにざっくりと袋から塩を出して、京一は指に付いた塩をペろりと舐めた。殆ど条件反射だったのだが、砂糖とは違いそこその量を口に含んでしまい、途端に塩辛さに、うぇっ、と顔を顰めた。

「大丈夫?」

隣で鍋に水を張っていた龍麻が京一を覗き込む。京一の渋面に、水飲む?、とグラスに手を伸ばし、しかしその手を京一に取られて引き寄せられ、よろりと近付いた瞬間、唇が触れた。いや、触れた程度では収まらず、薄く空いていた隙間から京一の舌が差し込まれた。

「…ん……ん…っ」
「……砂糖補給完了」

ぐるりと咥内を舐め上げてから、京一は唇を解放してニヤリと笑った。対する龍麻は一瞬唖然と京一の唇を追ってから、そう、と素っ気なく返すもその顔色は赤い。
素知らぬ振りで、煮立った鍋に冷凍されていた白米を入れた京一に倣い龍麻も鍋に向き直るが、オタマを手の中で弄る姿を見るにイマイチ集中出来ていないのは明白だった。

(可愛い反応してまぁ…)

オタマを弄る姿を横目に塩と出汁粉末をパラパラと鍋に投入した京一は、すかさず龍麻の手に片手を添えて、龍麻の手越しにオタマを鍋に突っ込んで掻き回し始めた。

「あ、の…きょう…いち……」
「んー?何だ?」

しらっと惚けて返せば戸惑ったように龍麻が黙り込む。何かを言おうと口を開き、また閉じる。それを幾度か繰り返し、何でもない、と赤くなった顔を鍋に戻した。
京一はそれにくつくつと喉を震わせて、オタマで鍋の端の方をくるりと掻き混ぜた。

お互いの気持ちを告白して取り敢えず落ち着いた二人は、汚れたままだった京一が風呂から出るのを待ってから遅い夕食の準備に取り掛かっていた。
何日も食事を摂っていない龍麻の胃を考慮して卵粥を作っている訳なのだが、気持ちが通じ合って舞い上がってしまっている京一は引っ切り無しに龍麻にちょっかいを掛けていた。京一には、一々可愛い反応を返す龍麻が可愛くて可愛くて仕方がない。
京一自身、まさか此処まで龍麻に首ったけだとは思いも因らなかったが、自覚して改めて見た龍麻は思っていた以上に魅力的で、色々な顔が見たくてついつい構ってしまっていた。対する龍麻も構われる度にオドオドと挙動が不審になるものの、京一に構われるのは嬉しいらしくされるがままなのも、京一を助長させる一端だった。

「龍麻、出来たら持ってくから机用意しといてくれよ」

龍麻の借りているアパートは貧乏学生御用達の八畳の1DKの為机は折り畳み式の簡単な物しかなく、龍麻が壁に立て掛けていたそれを引っ張り出して組み立てるのを目の端に留めながら、京一は食器棚から丼とお椀を一つずつ取り出して鍋の火を消した。フライ返しや菜箸と並んで頭上に吊してあった鍋敷を取り上げた所で、食事机をセットしてきた龍麻が食器を取りに戻ってきた。運ぶ、と言う龍麻に食器を頼み、鍋と鍋敷を京一が机まで運ぶと、丁寧に器と箸を並べていた龍麻と目が合った。

「ありがとう」

柔らかい笑みに、どう致しまして、と首を傾げて見せると、また龍麻がふんわりと笑った。

「俺、笑った顔が一番好きだな」

お椀によそったお粥に息を吹き掛けていた龍麻がそろりと京一を見上げた。何の話だと告げる視線に、お前の、とさらりと微笑を送れば、ぱちくりと龍麻が緩慢に瞬いた。次いで赤くなった顔をお椀の方に伏せる。そう、と小さく返った返事にまた笑って、京一はお粥を口に含んだ。

「本当はよ、お前の怒った顔とか辛そうな顔とか…俺、苦手なんだよ…………泣き顔なんか特にな…お前には笑ってて欲しいんだ。俺の傍でな。…でも、俺は馬鹿だから、きっと何でもかんでも上手くとは言えないから、出来る限り全力で、お前を護る」
「京一…」

不意に誠実な声で告げた京一に、龍麻はしっかりと頷いた。次いで、俺も、と言葉を繋ぐ。

「俺の、精一杯で…京一を護るから……」
「…おぅ。俺の背中はお前に預けたからな」

護られるだけじゃ嫌だ、と。自分も京一を護りたいんだ、と告げた龍麻にこそばゆさを感じながら、京一はにこやかに微笑んだ。
そうだ。お互いに、護られっぱなしは性に合っていない。足りない所を補い合って、肩を並べて行けば良い。
今まで以上に澄んだ視界の先にいる龍麻に手を伸ばせば、躊躇いなくそれに頬を擦り寄せてくれる。

「……食ったら、話訊くから」

うん、と頷く替わりに瞳を閉じた龍麻に、京一は穏やかな幸せを感じた。





書いてる私が一番恥ずかしい。
驚きの新婚さんいらっしゃい話でした。龍麻の落とし技は微笑みですが、京一の落とし技は何気ない(?)スキンシップです。ご馳走様です。
京一はそこそこ料理出来ると良い。修業時代に「師匠に任せてたらダメだ…!」とか幼いながらに頑張ってたら良いと思います。絶対京梧さんやらないし下手だと思うので(笑)

続きます。

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