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★諸注意★
・剣風帖で京一×主人公です。
・主人公の名前はデフォルトの「緋勇龍麻」。
・剣風帖第六話『恋唄』の話。
・それでも宜しければ続きからどぞ。





それは、ビデオの早送りのようだった。

広がる炎。
崩れ落ちる瓦礫。

そして、微笑む少女。

その結末は赤い景色に包まれて――――終わった。

 

 

「本当に、病院に行かなくて良いの?」

静かな声に、相手は無言で頷いた。
崩れ落ちる廃屋から飛び出し、そのまま近くの公園まで走った面々は、鳴り響く消防車のサイレンを聞きながら、やっと一息ついた。街灯に照らされて漸く自分達の惨憺たる有様に気付き、制服の煤を払ったり怪我の具合を診る。
そんな中、京一の上着を羽織った龍麻はベンチに浅く腰掛け、じっと自らの靴先に視線を落としていた。
地下室では気付かなかったが、手首や足首に縛られたような痕があり、シャツから覗く肌にも細かい裂傷があった。それを今まで葵と舞子が二人掛かりで治療に当たっていた。外見上の傷は治療したが、もしもがあるから、と桜ヶ丘病院へ行くことを勧めたが、龍麻は頑として首を縦には振らなかった。
諦めた二人は困ったように顔を見合わせ、龍麻の傍らに寄り添うように座る京一に葵が目配せを送る。
治療は終わった、と告げるそれに頷き、近くにいた醍醐に京一が同じように目配せを送った。

「まぁ、一応美里や高見沢さんが診たのだから、病院は明日にして今日はゆっくり休んだ方が龍麻も楽だろう」
「…そうだぜ。あそこの院長相手じゃ、龍麻さんもいつ喰われるかってオチオチ寝てもいられねぇだろうし」
「あ~、そんな事言うと、院長センセーにチクっちゃうんだから~」

カラカラと笑った雨紋に舞子が首を傾げた。

「舞子~、ちょっと寄ってから帰るね~。亜里沙ちゃんも付き合って~?」
「良いわよ。さっ、下僕二人も早くしなさい」

下僕って俺達の事かよ!、と喚きながらも紫暮の背を押しながら舞子達の後を雨紋が追う。去り際にちらりと閃かせた笑みに、醍醐は頷く。気を遣ってくれたのだ。
視線を落とせば、未だに龍麻はぼぉっと地面を見つめている。
素直に帰ると言ってくれるだろうか、と思案げに顎を撫でると、京一が龍麻の顔を覗き込んだ。

「そろそろ帰ろうぜ。皆で送ってやるからよ」

すると、一拍置いてからふるりと左右に頭が振られた。

「一人で、帰れる…………」

拒絶とも取れる言葉に、葵と小蒔が悲しげに眉を寄せた。言葉少ない龍麻だが、こんなにも淡々として感情の込もらない声は初めてだった。
醍醐すら口を閉ざした中、京一が名を呼んだ。

「じゃあ、今日お前んちに俺を泊めてくれよ。自分んちまで帰るのかったりぃからよ」

な?、と笑った京一に、初めて龍麻がのろりと顔を上げた。躊躇うように視線が揺れる。と、つい、とその龍麻の眼前に影が進み出た。

「京一く~んと~、一緒にいた方~が~、いい~よ~?」
「ミサちゃん!」
「お前…まだ帰ってなかったのかよ」

分厚い丸眼鏡の下でにんまり笑った仲間に、京一が些かげんなりと肩を落とした。いちゃ悪い~?、と首を傾げるのに、いや、と醍醐が口許を引き攣らせる。その様子にクスクスと笑い声を立てた彼女に、だんまりだった龍麻が、弱々しく名を呼んだ。

「さっきの…どういう…事?」
「……今~龍麻く~んには~、墜落の~暗示が出てる~わ~。色んな~高み~から~堕ちていく~。とめられる~のは~京一く~んの馬鹿みたい~に大き~な太陽の氣だけ~」
「……………………」

うふふふふふ、とお決まりの不気味な笑みを零す裏密の底の知れない眼鏡の奥を龍麻が凝視する。やつれて精気も少ない龍麻の様子も相俟って、二人が睨み合っているかのような錯覚に陥る。剣呑な気配が漂いだした刹那、龍麻の髪をぐしゃりと京一が掻き乱した。

「裏密もこう言ってんだ。異論はねぇな?…とっとと帰るぞ」
「………………」

ニヤリと笑って無理矢理腕を取って龍麻を立たせた京一は、じゃあな、と軽やかに笑って成り行きを唖然と見守っていた仲間達に片手を上げた。一番先に我に返った葵が、気を付けてね、と強張りつつも笑みを向け、続けて小蒔と醍醐も手を振り返した。
腹減った、と軽い調子で龍麻を半ば引きずるように連れて行く京一は、残った四人に背を見送られながら数歩歩きかけ、ふと振り返った。

「…ありがとな」

…何に対してなのか、そんな事は判りきっていて。
何事もなかったかのようにまた歩き出したその背に、四人は小さく誰ともなく苦笑する。

「…良いとこぜーんぶ持ってっちゃったよあの馬鹿」
「裏密も済まなかったな。京一を立ててくれて」
「ミ~サちゃんは~、本当の事を~言っただけよ~」
「…そうね。今の龍麻には、京一君の明るい笑顔が一番の特効薬なのかも知れないわ」
「何だか癪だけどね」
「そうだな……しかし、俺の中ではあの二人は常にセットだからな……正直、妬くだけ無駄、という気持ちだ」

見えなくなった背に、四人も揃って歩き始める。本人達は気付いているか定かではないが、自分では代わりになれないと改めて痛感するような京一と龍麻の距離感に、醍醐が苦く笑う。同意を示すように葵がくすくすと微笑すると、裏密が不意に笑みを閃かせた。

「京一く~んの、今日の恋愛運は~、ミサちゃ~んも~びっくりする位~の至上の星の位置~」
「え!それどういう事ミサちゃん!」

意味深なお告げに小蒔が飛びつくも、裏密は不敵に笑うだけだった。




やっとフラグが立ちました。ミサちゃんフラグ。え?死亡フラグではないですよ?
それから初態度の悪い龍麻。良い子ちゃん過ぎるほど良い子ちゃんなので、ミサちゃんとの対決(?)は楽しかったです。ミサちゃんも龍麻に悪意がないことも、わざとだって事も分かっててやってます。
何だかんだ周りが皆世話焼きで、うちの京一も龍麻も本当に幸せ者ですよねぇ。

続きます。

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