・剣風帖と外法帖クロスで天童&外法主人公です。
・主人公の名前はデフォルトの「緋勇龍斗」。
・天童の過去捏造になります。ご注意下さい!
・外法帖の未来捏造になります。ご注意下さい!
・それでも宜しければ続きからどぞ。
	初めて男の姿を見たのは、確か十歳になって初めての春だったと思う。
	満開に桜が咲いた、夜の事だった。
	夜桜に誘われて庭に出た自分に、風邪をひくから、と桜の上から声がかかった。
	見上げた桜の太い枝にいたのは、人を惑わす桜の精だった。花霞にぼんやりと浮き上がった姿に思わず息を呑んだ自分に、男はやんわりと笑ってからふわりと目の前に降りて来た。さらりと躍った黒髪が、花びらを纏って彼の肩にかかった。腰を屈めた拍子にそれがはらりと目前に舞い落ちる。
「坊、名前は?それとも、若、とお呼びした方が宜しいか?」
低いような高いような不思議な声音に、知らず口が動いた。
	「天童…九角、天童」
	「では、天童。子供がこんな夜更けに出歩いていては危ないぞ?早く部屋へお戻り」
春先だと言うのに厚手の白いコートを羽織った男は、涼しげに微笑を閃かせた。
「鬼が出るぞ」
	男が頭を撫でた。
	その物言いが納得出来ずに首を傾げる。
	「お前は鬼ではないのか?」
	「…昔はそんな風に呼ばれた事もあったけれど……天童には、私はどう見える?」
	「どう?」
	「鬼に見えるか?」
	微笑む男は、可笑しげに髪を撫で梳きながら顔を覗き込んできた。はらりと長い前髪が揺れて白い面が露になる。
	鬼女のようだと思った。
	桜の精どころか、鬼の姫のような鬼気の混じった美しさに、ほぅ、と吐息が零れた。
「鬼に見える」
呟けば、何とも言えない複雑な表情で男は笑った。
「仲間がいないのか?」
	口に出してから、どうしてそんな事を思ったのか首を傾げた。男も驚いたようで、ぱちりと瞬くだけだった。
	――――仲間がいない鬼。
	考えを反芻してみて、ふと祖父の言葉が脳裏を掠めた。
	お前は鬼の子孫なのだと、あの人は言っていなかっただろうか?
	それが本当なのであれば、自分はこの男の仲間になってやれるのではないか?先程のように淋しげな顔をさせずに済むのではないか?
	しかし、そこでまた己の考えに首を傾げた。
(どうして、そんなに?)
	どうしてそれ程、この男の事が気になるのだろう?
	確かに得体の知れない雰囲気に好奇心は刺激されるが、それを除いても惹かれてやまない何かがある。
	自らを、鬼に堕としてまでも。
	ずっと、ずっと昔から、そうなるように決まっていたかのように。
「俺も、鬼になる」
するりと、そんな台詞が口をついた。
「俺が、お前の仲間になってやる」
	自分の身体ではないように、するすると言の葉が飛び出していく。
	男が、不意に泣きそうに顔を歪めた。
	駄目だ、と思った。
	離しては駄目だと思った。
	髪に触れていた手を掴み、逃がさないようにしっかりと抱え込む。
	自分ではない誰かが、離すな、と叫ぶ。頭の中を掻き乱し、離してはならない、と叫ぶ。
「てんかい?」
	ぽつりと落ちた名に、叫び声が止んだ。ぽたりと男の服に滴が落ちた。
	振り仰いだ顔には、夜露のような涙が光りながら流れていた。
	涙に濡れながらも、決して美しさを失わない男の面から視線を外せずにいると、転瞬、男の腕に抱き寄せられていた。
	「全く…いつまで世話を焼く気なんだか……」
	「は?」
	後ろ頭を撫でながらごちる男の言葉が解せなくて抱き竦められながら首を傾けると、男が苦笑する気配がした。ぽんぽんと背を叩かれ、誤魔化された気がして無性に腹が立った。無理矢理身体を離させて顔を覗き込む。
	幻だったかのように、涙が消えた顔には薄い微笑が滲んでいた。
	「天童、お前は人のままでいろ」
	「何故?」
	「鬼は私一人で十分だ」
	変わらず微笑む男の気配に鬼気が増した気がして思わず一歩後退りそうになる。が、警鐘のように高い鐘の音が頭に鳴り響いた。
	――――退いてはならない。
	本能のようなその声になんとか踏ん張って毅然と顔を上げてやれば、少しばかり諦めの混じった視線を寄越した後、優しく白い指が頬を撫でた。
「鬼になったら、お前に幸いはない」
	だからやめておけ。
	呪詛を吹き込む如く耳に口を寄せ男が囁いた。また、警鐘が鳴った。
「幸せかどうかは、俺が決める事だ」
	きっぱりと言い切りながら、理性が、何故言い切れる、と問いを投げ付けてくる。しかし、それから逃げるように頭を一つ振る。
	退いてはならない。退いてはならないのだ。
	言い聞かせるように手に力を込めると、ふと男が頭上を見上げた。瞬間、突風が辺りを吹き抜け、桜花が薄紅の幕のように視界を覆った。思わず腕を顔の前に翳す。
「天童」
	ごおごおと音を立てる風に紛れて名を呼ぶ男の声がした。
	ハッと辺りを見回すと、突風が嘘だったかのように風は凪いでいて、はらはらと花びらが頭上を舞っていた。気付けば目の前にいた男の姿も忽然と消えてしまっていて、焦燥感のような奇妙な感覚が手足を痺れさせた。
	気配は、まだある。
	桜の木々に紛れて、柔らかに花の薫りのような気配が感じられている。
	ほんの少しだけ申し訳なさが滲んだそれを睨み据えて大きく口を開いた。
「俺が、鬼になってやる!お前の仲間になってやるから傍から離れるな!」
	ふわりふわりと花びらを振り撒く桜に、苦笑する気配が混じった。それを認めた途端に、花の薫りに溶けるように気配が希薄になってしまう。
	――――絶対に、一人になどさせてやるものか。
	桜と己以外に気配が動かない庭で、ぎりりと手の平を握り締めた。
	また、独りになどさせない。
	遠くの意識で警鐘が鳴っていた。
そして双龍変に続く。的な流れ。
おいおいアンタの所為かよ!、ですね。
その後、天童が無茶し始めるからたっとさん鬼道衆から目が離せなくなっちゃったりする。
うちの若はたっとさんに京梧とは別の意味で甘いから、子孫に妙な術かけてそうです。その犠牲者の筆頭が天童。それを分かっているからこそ余計構ってしまうたっとさん。
よし、悪循環!
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