・外法帖で京梧×主人公です。
・主人公の名前はデフォルトの「緋勇龍斗」。
・大宇宙党話が終わった辺りのお話。
・それでも宜しければ続きからどぞ。
浴衣を買おう、と。
言い出したのは、確か小鈴だったと思う。
季節が夏に移り、江戸の蒸し暑さに参っていた己と京梧に、だったら少しでも涼しい格好をしよう、と彼女は言った。
しかし、浴衣を誂えるだけ懐が温かい訳もなく、二人して、無茶な、と薄く笑うと、そんなの問題ないよ、とばかりにそのまま龍泉寺の地下道に引っ張り込まれ、軍資金を集めをさせられた。ただでさえ暑いのにどうして動かなきゃならねぇんだ、と京梧がぶちぶちと言っていたが、流石に同感だった。
拾ったり奪ったりした拾得物を涼浬に頭を下げて大金に替え、そのまま今度は小鈴と藍行きつけの呉服屋まで連れて行かれた。
様々な反物を見せられたが、その時には既に京梧と二人ほとほと疲れ切っていて、もう何でも良い、と投げやりになってしまい、うっかり、見繕ってくれ、なんて口を滑らせたのがいけなかった。
「龍斗君似合うね!あー…でも、こっちでも良いかも!」
「そうね。龍斗さん、こっちはどうかしら?蓬莱寺さんはこっちを…」
はい…、とか細い声を二人同時に出して衝立の陰に入る。今まで締めていた帯を解き衣を脱ぐ。そして手渡された衣に再度腕を通した。
「龍斗…これで何回目だ?」
「お前は五、私は八だ」
げんなりと返すと、同じようにげんなりと京梧が嘆息した。
「反物だけでも時間食ったっつーのによ、出来合いで良いって言ったらこれだもんな……」
あんまりにも小鈴達が悩むものだから、店主が気を利かせて、出来合いもありますよ、と教えてくれた迄は良かった。しかし、そこからまた長かった。着て試せる為、次はあっち次はこれ、と端から着せ替えさせられたのだ。
折角二人が気を遣ってくれているのだから、と初めの内は京梧を宥めていた己ですら、そろそろ嫌気がさし始めている。
帯一つとっても数種類あるのだ。何通りもの合わせがあると考えただけで眩暈がする…。
「ん?、龍斗、お前それ女物じゃねぇか」
衣に袖を通した処で、京梧が潜めた声で顔を寄せて来た。
「判っている。私に合う男物の中にめぼしいものが無かったそうだ」
「成る程。お前に合う丈じゃあ、餓鬼くせぇもんばっかだもんな」
頷く京梧がするりと衣に腕を通した。
濃紺の生地。足元付近には臙脂の糸で牡丹が描かれており、帯もそれに合わせたのか赤銅色のものだ。
同じ様に帯を締めながら京梧の着替える様を見ていた自分の口から、ぽろりと言葉が転げ落ちた。
「それが良い…」
「は?」
聞き取れなかったのか、京梧が首を傾げた。それで漸く思った事を声に出していた事に気付く。
慌てて、何でもない、と手を振るが、感づいたらしい京梧がニヤニヤと顔を寄せてきた。
頭一つ分近い距離が一瞬で縮まり、髪と同じ赤茶の瞳がこちらを楽しげに覗き込む。
「なんだいなんだい。そんなに恥ずかしがらねぇで言ってみな?ん?ほら、京梧様似合う~ってよ?」
「……………………京梧、歯を食い縛れ」
腰を落として構えを取ると、からかって悪かった、と京梧が笑って腕を抑えた。くくっと咽の奥で笑い続ける腹に、腕を抑えられたまま軽く一発いれてやっても顔の緩みは変わらない。
そして、笑みが絆すようなものに変わった。
(…あぁ、腹が立つ)
柔らかな笑みに、また口が滑りそうになる。この男は、己がその笑みに弱い事を知っているのだ。
細められた赤茶に段々と顔が紅潮してきている事に気付き両手で頬を隠すと、抑えた腕を放して、京梧が距離をとった。
上から下まで目線が動き、小さく首を傾げた。
「似合うじゃねぇか、それ」
「え?」
抑えた手の上から、頬を京梧の指が撫でた。そのまま長い前髪を取って耳にかけられ、遮る物の無くなった視界の先で、うん、と頭が一つ揺れた。
「ついでに簪の一本も見繕ってもらったらどうだ?髪もそのまんまじゃ勿体ねぇよ」
な?、とまた傾けられた頭に先程以上の早さで顔に血が上るのを感じる。ほら、顔が熱くなった。
気付いているだろうに、京梧は知らぬ振りで口の端を持ち上げ、しげしげとこちらを見遣るだけ。
「白地に薄紅の牡丹ね…俺と揃いみたいで良いじゃねぇか」
わざと髪の中に指を滑らせながら、たまたまとばかりに項を撫でていく。擽ったさに思わず両手を離しかけ、しかし慌てて頬に戻す。赤くなっている頬を晒す事が出来るわけがない。からかう種を与えるだけだ。
しかし、明らかに赤くなっているであろう頬を必死に隠そうとしている姿も滑稽そのもの。京梧も咽の奥で可笑しそうに笑って、わざと頬を擽ろうとまでする。睨みつけても効力無し。くくっ、と咽を震わせ、次いで京梧は耳に口を寄せて来た。
「その格好、すげぇそそられる…」
反射とは恐ろしい。
気付いたら全力で京梧の鳩尾目掛けて拳を叩き込んでいた。……軽く躱されたが。
赤くなった顔を隠すのも忘れ恥ずかしさに絶句している隙に、京梧はひょいと衝立の外へ逃げてしまった。
「親父、今着てるの貰ってくぜ。俺が二人分払うからよ、あっちの奴に合う簪を見繕ってくれや」
まっかせといて!、とまたもや張り切り出した小鈴と、やんややんやと褒めちぎる藍と店主に衝立から引きずり出された時もまだ顔は赤いままで。
結局、藍お勧めのべっ甲の簪を刺してぶらつきながら龍泉寺に帰りつくまで、顔は赤いままだった。
「なんだ?暑さで逆上せたか、龍斗?」
――――出迎えてくれた雄慶に不思議そうな声を出され、更に顔の赤みが増した。
昔は出来合いの着物やら浴衣ってあったのだろうか(オイ)
そこんところは目を瞑っていただけるとありがたいです。はい。
京梧さんは派手めのものでも似合いそうですが、抑えめも大人の色気ムンムンで宜しいんじゃないかと!
藍さんと小鈴さん的に、たっとさんは可愛いより綺麗めの柄の方が似合うとされているらしいです(笑)
ていうか衝立の中で何してるんですかという話。
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