・剣風帖と外法帖クロスで犬神&外法主人公です。
・主人公の名前はデフォルトの「緋勇龍斗」と「緋勇龍麻」。
・剣風帖で京一達が2年生に上がった頃の話。
・外法帖の未来捏造になります。ご注意下さい!
・それでも宜しければ続きからどぞ。
桜が咲く。
校舎の裏にひっそりと咲く一本の古桜を見上げ、男は舞い散る花弁をぼんやりと目で追っている。
「緋勇」
呼ばわれた己の名に、男は頭を垂れた。
「一年振りです」
返事の代わりに、舌打ちが相手の口から零れた。それに苦笑して、緋勇は相手へとやっと顔を向けた。
「お変わりないようで何よりです」
「……お前もな」
「犬神先生には敵いません」
校舎の暗がりから抜き出た影は、皺が寄った白衣を春風に遊ばせながら銜え煙草を指へと移した。ふぅ、と吐いた白煙は緋勇に届く前に空気に溶け、届いたのは桜の匂いを含んだ風のみ。
「犬神先生…少しやつれられましたか?」
「まぁな。どっかの馬鹿共そっくりの餓鬼の面倒を見ていれば、嫌でも老け込むだろうよ」
「お世話をお掛けします」
苦渋を露にする犬神に緋勇は微笑を返し、次いで小さく頭を下げた。それに犬神がまた嫌そうに顔を顰める。緋勇は犬神の反応にまた笑みを深くすると、己の髪に絡まった花びらを丁寧に落とした。
「皆可愛い子らですよ。葵も小蒔もあの二人同様綺麗になって、雄矢も優しく立派になりました。それに…京一も――」
舞い散る花びらのようにふわふわと楽しげだった緋勇の表情が曇った。口を噤むと、不意に桜を見上げた。
「犬神先生…?」
唐突に名を呼ばれ、しかし緋勇の表情に気付かなかった振りをして、何だ、と犬神はぶっきら棒に応えた。
「似なくて、良かった…です」
ぽつり、呟かれた言葉。犬神は、何が、とは訊かなかった。
それを気にした様子もなく、緋勇はまたぽつりぽつりと言葉を吐いた。
「とても、仲間想いの優しい子なんです。人の為に、怒る事が出来る…立ち向かっていける、強い子なんです。――先生。本当に、京一があの馬鹿に似なくて良かったと思います。だって、京一は…きっと大事な人を置いて行ったりはしないだろうから……」
ふ、と緋勇が笑った。
「きっと、龍麻を一人にはしないから……」
眩しそうに桜を見上げる顔からは緋勇が何を思っているのかは読み取れず、唯々その姿が犬神にすらも憐れを誘った。彼が己と同じ人在らざる者になってしまっているからか、ただ単に長年の付き合いで絆されただけか。
犬神には違いが判らなかった。
しかし、己の珍しい心の動きに驚きながらも常の表情を崩す事がなかった犬神が、ぽつりと落とされた緋勇の囁きに微かに眠たげな瞼を上げた。
「鳴滝冬吾が動きました」
気配を察した緋勇が桜を見上げたまま告げた。
「来るのか」
此処へ、と諦めの混じった息を吐き出す犬神へ、はい、と緋勇もそっと息を吐いた。
「今は様子見のようです。出来ればそっとして置いてやりたいと冬吾も考えているようなので…………唯、もうこんなにも氣が狂ってしまったから…遠くない内に、彼は龍麻を東京へ遣るでしょう」
緋勇は空さえも霞ませる桜の花を見上げたまま瞼を閉じた。
犬神も緋勇と同じように顔を上げ、視線の中を薄紅色に染めた。
――――狂い咲きの桜。
この桜は、毎年少しずつではあるが、花数が殖えていっている。人の短い生の中では取るに足らない差だが、長い年月この桜を見続けてきた犬神には狂っているとしか思えない速さだった。それは犬神程ではないにしろ、やはり百数十年生きてきた緋勇もまた同じだった。
「確実にあと一、二年で龍脈は活性化を果たします。もう、宿命は止まらない」
「緋勇」
瞼を持ち上げた緋勇の瞳に剣呑な光が宿っているのに眉を顰めた犬神が一歩足を踏み出した。
「ご心配には及びません」
しかし、次の瞬間には柔らかに笑みを佩いた顔が犬神を見遣った。
「私は、もう過去の亡霊ですから…」
ふわりと微笑んで、緋勇がとん、と地面を蹴った。音もなく桜の太い幹に登り、そこに腰を下ろすと、愛おしむようにその木肌を撫でた。
「犬神先生?」
眠るように枝に頬を寄せて瞳を細めた緋勇に、犬神は唯顔を上げた。
「少しだけお邪魔していても良いですか?」
犬神の返答を待たずに瞼を閉じきった緋勇の気配が桜に紛れていく。確かに未だそこにいるのに、もう髪の毛一筋程の気配さえも断ってしまった為、常人には姿さえも桜花に溶け込んで見えなくなってしまっている事だろう。
犬神は、風に揺れる枝を揺り篭代わりに眠り込んだ緋勇から視線を手元に落とすと、好きにすれば良い、と吐き捨て、指に挟んだままだった煙草のフィルターを口に運んだ。
腐れ縁的な付き合いの長さで仲良しになりました(笑)
犬神先生的には唯でさえ京梧そっくりの京一のお陰で日々疲れているのに、この上お前の所までか、と思ってます。詳しく龍麻の事は知らないので、龍斗そっくりな奴だったらまた煩くなるじゃないかと。
毎年春には真神に戻ってきていますが、京梧が毎度遅刻気味なのでいつも逢えず終い。もう不貞寝の域です。だから京梧が来てもぐっすりで起きられません(笑)
犬神先生も京梧がちゃんと来てる事を面倒臭がってたっとさんに教えないので、擦れ違いが続きます。可哀想な京梧さん(笑)
たっとさん自体は天童に掛り切りになっている真っ最中。寧ろ京梧ばかりに構ってる暇なんかない!と思ってます。
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