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★諸注意★
・剣風帖で京一&主人公です。
・主人公の名前はデフォルトの「緋勇龍麻」。
・まだ苗字呼び時代のある日。
・ヘタレ街道まっしぐらな京一がいらっしゃいます。
・それでも宜しければ続きからどぞ。





「甘いの嫌い?」

昼休み。
購買で買ったパン片手に屋上へ。
焼きそばパンとカレーパンのどちらにしようか悩んでいたら、両方買ったら?、と緋勇がアドバイス。一つで足りるのかと訊かれ、確かに足りないな、と両方購入。
一人暮らしの割に毎日ちゃんと弁当を持って来ている緋勇を伴って屋上に上がると、運の良い事に先客もおらず、暖かな陽光の中誰に構う事なくアスファルトにどっしりと腰を据えた。

「甘いもの?」

たまたま袋から先に出したカレーパンから頬張っていると、自らの弁当箱の中――――厚焼き卵にじっと視線を注いでいた緋勇が不意に顔を上げて言った。

「別に嫌いじゃないぜ?」

好き嫌いは特に無い方だ。
別段辛いもの好きでも甘いもの好きでもないから極端過ぎなければ何でも食べれる。
軽く頷くと、その大きな卵焼きを半分に箸で切り分け、ん、と眼前に緋勇が差し出してきた。
食べて良いという事らしい。

「良いのか?」

こっくりと頷く頭に、素直に卵焼きを頬張ると、ダシの味に続いて柔らかな甘さが咥内に広がった。焼かれ過ぎていない丁度良い固さのそれをもぐもぐと無言で咀嚼するのを覗き込むように窺う緋勇に、ん、と一つ頷く。

「美味い。ご馳走さん」
「平気?」
「あぁ、甘いかって?いや、これくらいなら全然」

俺は好き、と笑ってやれば、そう、とぼんやりとした表情に笑みが浮かんだ。前髪の隙間から覗く双眸が嬉しそうに細められたのに、何だかこちらまで嬉しくなってしまう。手料理一つ褒めただけでこれだけ喜んで貰えるのであれば、弁当の中身全てに美味いと言ってやったらどれだけ喜んでくれるのか。
弁当箱には厚焼き卵以外にもきんぴらごぼうらしきものや揚げ物も入っていて、凡そ一人暮らしの男子学生の昼食とは思えない豪勢さだ。見た目も綺麗で、食べなくても美味いだろうことが判る。
以前から部屋に泊まった際などに手料理を振る舞ってもらっていたが、意外と緋勇は料理上手なのだ。
それに、フレンチだイタリアンだとお高くとまったものを食べるより、昔から口にしている気楽に食べれるお袋の味の方が好みだからというのもあるが、緋勇の素朴な味は食べるとほっとする気がして、時々分けてくれる弁当のおかずは密かな楽しみだったりする。

「スゲェ美味い料理より、こういう普通の家庭の味って奴の方が俺は好きだな」

素直に味の好みを伝えてやれば、今思い付いたとばかりに緋勇が、あ、と瞬いた。

「今日、うち来る?」
「あ?別に用事ねぇから、緋勇が良いなら行くけどよ…急にどうした?」
「……卵、凄く余ってて…今日が期限で……食べるの、手伝ってくれたら嬉しい」

どうやら卵の残りを数えているらしい緋勇の指を順に折っていく様子に、あ、とこちらも一つ思い付く。

「最近晩飯作ってないからか?」

問い掛けに一瞬きょとりと瞳を瞬かせ、次いでこっくりと緋勇が頷いた。
旧校舎で暴れる、腹が減る、王華へが、最近の自分達の放課後の過ごし方だった。流石に毎日女性陣を誘うのも憚られて、専ら緋勇と二人で潜ることが多かったが、まさかその所為で緋勇の経済状況が逼迫するとは思いも寄らなかった。
自分達は王華に寄らなくても家に帰れば当たり前のように夕飯が用意されているが、緋勇はそうではない。自分で作らなければならない以上、多少は食材を買い込んで置く必要がある筈だ。それなのに一週間連続でラーメンに誘ってしまった。

(一週間分の…?)

余っているという卵の数を考えただけでも申し訳ない。卵以外にも無駄になってしまいそうなものがありそうで思わず口から呻き声が洩れた。

「悪ぃ、俺の所為だよな。ラーメンばっか食いに行ってたから余っちまったんだろ?」
「結果的には……」

思案げに頷く緋勇は、しかし、でも、と一つ前置いてこちらを覗き込んだ。

「ラーメンの所為じゃない」

告げられた事に、へ?、と間抜けな声を上げると、珍しく照れたように緋勇が小さく笑った。
「最近、よく京一が来るから、多めに買ってて…それで……」
「あ…成る程…」

結果的に、の意味を理解し納得とばかりに手を打って、しかし直ぐさま緋勇に向き直った。凝視した表情は少しだけ困った風で…。

(今日ばかりは考え無しの自分を撲りたい)

どちらにせよ迷惑を掛けていることには変わりがなかった。気安いからと自分がちょこちょこ泊まりに行くので、緋勇はそれも計算して買い物をしていたのだ。…ラーメン屋に誘い過ぎの罪よりなお悪い。
旧校舎での入手物を骨董屋で換金しているので、緋勇の懐も以前より温かいとは思うが、それで余計な買い物をさせていては意味がない。
まともに顔を上げていられなくて肩を落とすと、緋勇がこちらを窺う気配がした。

「京一…?」
「…緋勇…ごめんなぁ……」
「…何を?」
「い…色々と…」

顔を覆いたくなった。まともな謝罪の言葉すら一つも出て来ない頭が恨めしい。
のろのろと下降していく頭の横で、あぁ、と、また思い出したとばかりに緋勇の穏やかな声が上がる。

「京一が、気にする必要ないから…本当に……それに、一緒に食べてくれたら、嬉しい。…一人だと、少しだけ、淋しい…から……」

おっとりとした口調に勇気付けられて顔を上げると、目が合った緋勇が、ふわりと笑った。だから、家に来るのを控えてくれるな、と言われた気がして、嬉しさと恥ずかしさがないまぜになった奇妙な顔を晒したまま、唯一つ緋勇のようにこっくりと頷いた。
その様子に満足したのか、緋勇は手元の弁当へ視線を落とし、次いでまたこちらを窺った。

「蓮根の、きんぴらは…嫌い?」
「………………好き」

じゃあ、とばかりにお裾分けしてくれるらしい緋勇が、蓮根と人参がつままれた箸を差し出してくれた。慰めてくれているのか餌付けされているのかはさて置き、口一杯に広がった甘しょっぱい旨味に素直に、美味い、と伝えた。

「それも、余ってる…」
「食べる…」
「…卵は……?」
「食べる」

だし巻き卵が良い。
ぼそりと言うと、苦笑しながらも弁当の中の厚焼き卵をもう一つ分けてくれた。

「甘くない方が…良い?」
「…甘くて良い」

飲み込んだ卵焼き以上の甘さで、緋勇がふんわりと笑った。
――――お前、絶対餌付けしてんだろ。



主夫な主人公。
卵と牛乳とさしすせそな調味料はいつでも常備(笑)
京一はラーメンを除けば、意外とお袋の味タイプが好みだったら良い、という私の願望。
ひー様はむつかしくなければ和洋中ある程度作れる感じです。でも和寄りかな。
そして卵は甘めだと思うのです。イメージは居酒屋の卵焼き。甘さ控えめなだし巻き卵!
…よく考えてみるとひー様の作るものはおつまみ系統ばっかりか…?
そりゃ、京一好きな筈ですよねぇ。
あ、うちだけか。

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