・剣風帖で京一&主人公です。
・主人公の名前はデフォルトの「緋勇龍麻」。
・まだ苗字呼び時代のある日。
・それでも宜しければ続きからどぞ。
見上げた空からは大粒の雫。
昼過ぎから降り出した雨は激しさを増し、下校時にはちょっとした豪雨と呼べる程のレベルに達していた。
そんな痛々しい程の激しさで雨が降りつける地面を、京一は下駄箱から鈍よりと見遣った。
雨になるという予報があったのは知っていたが、まさかここまでのものだとは考えていなかった為、傘なんぞ持ってきてはいなかった。そしてそんな時の為にと置き傘をするようなまめさもある訳もなく。あぁ、この中を帰るのか、と半ば諦め切ったような目で袈裟袋を肩に担いだ。
「京一?」
と、隣りに同じように佇んでいた友人が京一を覗き込んだ。帰らないのか、とその目が不思議そうに京一を写す。
「先行って良いぜ。傘ねぇから走って帰るからよ」
「傘…?」
京一が大袈裟に肩を竦めて見せると、思案げに緋勇が首を傾けた。じっと見つめてくる視線に、もしや自分の傘を貸そうか悩んでいるのかと京一は思いついて、慌てて彼の肩を叩いた。
「心配すんな。俺んち走って五、六分ぐらいだから。ビショビショにはならねぇよ」
明るく笑って遣るが、緋勇の視線は京一に注がれたまま動かない。困り果てて思わず眉を下げると、緋勇の瞳がぱちぱちと瞬いて、微かに頷いたように髪が揺れた。
「アパート…歩いて五分だから、走れば…直ぐ」
「え?」
「うち、来る?」
ことりと傾げられた頭に、つられて京一も頭を傾けた。
「え、や、…でもよ」
京一は歯切れ悪く頭を掻いた。
記憶が正しければ、確か緋勇はアパートに一人暮らしだったはず。バイトなどをしている様子がないので、親からの仕送りで生活しているのだろう。それも、緋勇一人分の額しか送られてきていないはずの所へ上がり込んでしまっても大丈夫なのだろうか。
正直言えば、大変有り難い申し出だ。真っ直ぐ自宅へ帰ると、流石にビショビショにはならないだろうが、相当濡れるだろうことは覚悟しなければならない。歩いて五分なら、確かに走れば直ぐだろう。
それでも、京一にだって良い悪いの分別はある。
この勢いでは雨は早々には止む事はないだろうから、上がり込んだが最後、一晩厄介になる可能性が高い。そうなれば自然と夕飯、朝食までご馳走になるだろう事が予想される。
(さ、流石に…)
苦学生と言っても過言ではない者にそこまで世話はかけられない。
あー、とか、うー、とか呻きを上げる京一の内心の迷いを知ってか知らずか、緋勇が手に携えていた傘を持ち上げた。留め具が外され、後は開くのみとなっていたそれを手の内でクルクルと回して、ぽちりと閉じ直した。それを見て京一が更に呻いた。傘を閉じたのは、開いていたら走るのに邪魔だからだ。
「緋勇…」
自分でも情けない声だと思った。名前を呼ぶと、緋勇は傘と鞄を脇に抱えながら準備万端とばかりに京一を振り返った。その顔に穏やかに笑みが広がる。
「行こう」
促す声には覆せない何かが混じり、微笑には仄暗く湿った陰気な雰囲気をものともしない力があって。
京一は観念したように鞄と袈裟袋を持ち直した。
「…おぅ」
滅法美人で、滅法強くて、そして滅法お人善しな友人だが、彼の最大の強味は絶対にこの笑顔だ。
男の笑顔にはこれっぽっちも興味のない自分だけれども、彼に笑ってもらえるというそれだけで、とびきり得をした気分になるのだ。
「よっしゃぁ!緋勇、明日ラーメン奢ってやっからな!」
世話んなる、と緋勇の肩を叩いた京一に小さく頷いて、さも得をしたのは自分だとばかりに彼が笑った。
――――ま、明日も雨でも良いけどな。
ひっそりと呟やかれた京一の言葉は、走り込んだ雨音の中に紛れて奇跡的にも龍麻には届かなかった。
ある意味確信犯なひー様。
ここで京一が意地を出して断ったら、きっとすんごく悲しそうな顔をします。
京一 「真っ直ぐ帰るから心配すんな」
龍麻 【悲】連打
とかね。余計居た堪れねぇえええ!
そんな京一が好き。
…あれ?うちの京一ヘタレ……?
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