・剣風帖と外法帖クロスで天童&外法主人公です。
・主人公の名前はデフォルトの「緋勇龍斗」。
・剣風帖第八話『邪神街』辺りの話。
・外法帖の未来捏造になります。ご注意下さい!
・それでも宜しければ続きからどぞ。
ゆらゆらと、青白い炎が浮かんでいる。燃える物も見当たらないそれは、まるでその場に満ちた闇を燃料にしているかのように、暗い宙をさ迷っていた。
時折、その青白い明るさに何者かの姿が曝け出される。
蠢くその影には一様に先端の尖った角がついていた。
ある者は両耳の近くに。ある者は頭の上部に。ある者は額に。
――――鬼の姿だった。
それは昔話にでも語られるような、舞や能で演じられるような、正しく鬼そのものの姿だった。
そう。
ぽっぽっ、と灯されているのは鬼火だ。
闇を好む彼ら異形の為の明かりだ。
その仄明るい闇の最奥に、学生服を着た少年が一人、良く言えばアンティークな、悪く言えば年期の入った漆塗りの椅子に腰掛け脚を組んでいるのが見える。
彼は肘掛けに腕を預け、異形が蠢くただ中にあってもゆるりと脚を組み替える余裕すら見せながら、眼前の闇に視線を向けている。
「御屋形様」
ふと、闇から溶け出すように少年の前に異形が一つ進み出た。少年は老爺のような鬼面を付けたその影を一瞥すると、尊大に手を振った。
「御意」
彼が手を振った瞬間、心得たように鬼面の異形も闇に紛れていた異形達も皆唐突に気配が掻き消えた。元より音がなかった空間が静寂に満ちた。
少年は変わらず揺らめく青白い炎を一つ手の平に招くと、ふぅ、とそれに吐息を吹き掛けた。途端、ぼぼっ、と音を立てて炎が紅く燃え上がり、闇に塗り潰されていた空間が昼間のような明るさに変わった。
「明るい方が好きだろう?」
からかうような口調で笑った少年は、明るくなった空間――――何処かの学び舎の教室のような部屋の隅に手を伸ばした。瞬間、バチリと小さく火花が散って紙切れらしきものが燃えて灰になりながら彼の足元に舞落ちていった。
「そんな物が、未だに私に効くと思っているのか?」
少年の視線の先には、白いコートを羽織った小柄な男が立っていた。
歳の頃は少年より下に見える。しかし、男の女性のように整った美しい顔立ちに浮かぶ表情には、年長者の威厳らしき威圧感が感じ取れる。
前髪は長く伸ばされてはいるが、完全に表情を覆い隠す事は出来てはおらず、寧ろ白い肌を縁取る鴉の濡れ羽色の髪が、彼の容姿を引き立たせているとさえ思えた。
同じ様に少しばかり長く伸ばされた後ろ髪は首の少し上でぞんざいに括られ、彼の動きに合わせてさらさらと流れている。
「唯の挨拶だ。俺だって呪符の一枚如きでアンタをどうこう出来るとは思ってない」
「どうだか。まぁ、ヒヨッコなりに励め」
「はは、俺相手にヒヨッコなんていうのは龍くらいだ」
龍、と呼んで相好を崩した少年は、音もなく傍近くまで来た男を見上げた。
「今日の用件は何だ?」
「水角を動かしただろう」
「それが?」
見上げる顔の表情一つ変えずに少年が告げた。
「…天童」
「聞けねぇな」
「お前、私を怒らせたいのか」
「よく言うぜ。そう言いながら今までアンタが俺相手に強気に出たことなんて無ぇ癖に。…俺に誰重ねてんだか知らないがな」
咎めるように男が柳眉を顰めるが、天童と言う名の少年は鼻で笑ってそれを一蹴し、細い男の腕を引いた。途端に戸惑うように男がそれに抗った。腕を解くように、掴まえられていない手で天童の指をやんわり外そうとする。
「龍」
呼ぶと、逡巡の後男が小さく息を吐いた。仕方ないと書かれた顔を天童に向け、引き寄せられるがまま男は天童の傍へ侍った。
天童が可笑しそうに唇を引き上げた。くく、と忍び嗤う天童から顔を逸らし、男がまた嘆息した。
「…狙いは、増上寺か」
「当たらずも遠からずってやつだな。今更無駄だぜ?」
「いや、まだだ」
天童は目を細めた。
「……アンタ、俺が何人使ったと思ってんだ?一人や二人じゃねぇんだぞ」
「門が開いていない」
一見して睦言を囁くような密やかな声と距離の二人の傍近くで鬼火が爆ぜた。
天童は男の瞳を覗き込んだ。長い前髪に邪魔されてはっきりとは窺えないが、その眼は黄金色に輝いて見える。何もかもを見透かすようなそれに、天童はまさに龍の眸のようだと思った。
龍と書いてたつと読む。
天童は男の名を知らない。唯、好きに呼べと言った口で、昔にそう呼ばれていた事があると男が明かしたから、天童は彼をそう呼ぶ事にした。
天童は、男が人為らざる者ではない事に気が付いていた。男に比べれば、外道に堕ちた自分でさえまだ人だと思えた。
「流石は化け狐。いや猫か?」
「…どちらも変わらんと思うが?」
「はは、どちらにせよ人妖に違いないだろ。――増上寺の地下にある門の事を知ってる奴なんざ碌でもないに決まってる」
俺も含めてな、と口の端で嗤う天童の首へ、男はそっと腕を伸ばして抱き竦めた。されるがままのその頭を幼子にするように撫でてやると、苦笑めいた息が男の髪を揺らした。
「まだだ。天童、まだ間に合う。お前は幾人もの人を殺めたと言うが、それがどうした。門が開けばどうせ死ぬのだ。構うまいよ。皆、皆死ぬのだから」
「…随分と薄情な事を言うんだな」
苦笑を深めた天童に、男もまた嗤った。
「私にだってはかけがえのない者はいる。お前も含めて幾人もな。私の秤はずっと傾きっぱなしなのだ。何年も…何年も、な。――だから、な、天童?お前自身を危うくしてまで探すモノか?お前が命を掛けてまで、探すに値するモノなのか?」
男は腕緩め、次いで天童の目を覗き込んだ。表情を消したその眼に、一瞬戸惑いが浮かんだ。
「アンタ……どこまで知ってる?」
天童は首に掛けられたままだった男の腕を引き剥がすように解くと、困惑を露にした厳しい視線を男に向けた。
男に、目的を話したことはなかった。頭目である天童が告げないのだから、部下から洩れる訳もない。天童の頭には、真実この黄金の眼が何処までも見透かす事が出来るのではないかと馬鹿な疑問すら浮かんだ。
男はそんな天童の厳しい視線を受け、小さく泣くように笑った。
「……何もかもを」
知っている、と告げ、男は天童の髪を柔らかく一撫でした。次いで名残惜しげに頬に手を添えた。
「龍……」
「…また来る」
駄々を捏る子供を相手にしているように頭を撫で、そっと別れを囁いた男は、瞳に困惑が混じったままの天童を残し、唐突にに踵を返した。
「龍」
男は振り返ることなく出入口のドアを開け放った。横にスライドさせ開けるそれによって遮断されていた音が部屋に飛び込んできた。若い男女の話し声や笑い声。小さな喧騒の中、人工のものとは違う明るい陽射しに男の輪郭が溶ける。
「…………龍っ」
後ろ手に扉を閉めた男が、最後に微かにこちらを返り見た気がした。しかし、扉が閉まると同時に訪れた静寂に一人残された天童には、それが己の意識が見せた幻のように思えて、知らず深く息を吐き出した。
ふらりとやって来て、そしてまたふらりと去って行く。
男の思惑が何処にあるのか定かではないが、彼なりのルールに触れない限り、天童が人を誑かそうが殺めようが勝手にしろと見向きもしない。だが、ルールに触れたからと言って、直接手を出してまで邪魔をする訳でもない。
一言三言諌めの言葉を吐いて、天童に懇願するように侍って、しかし何者にも屈せぬ黄金の瞳でもって天童を誑かす。
ほら、まだ心がざわめいている。
不思議だった。今までこんなにも心乱されるような人間を天童は知らない。いや、男は人ではないのだから、知らず妖しの術でもかけられているという可能性もあるが。
「…………」
男が、自分を通して誰かの影を追っているのには気付いていた。己の髪を酷く残念そうに見遣る男に、顔も分からぬ影に少なからず嫉妬を覚える程度には好意もある。
天童は己の髪を一房手に取ると明かりに透かして見た。若干赤茶混じりの髪が、暖色の光に照らされ燃えるような赤に変わった。
「何が目的なんだかな…」
まさか髪如きに何か意味があるとも思えず、しかし何とは無しに毛先を弄びながらぽつりと呟き、天童は男の去った扉を静かに見遣った。
天戒というより京梧寄りな天童に、若干残念だなぁ、と思いながらも、小さな頃から天童を見てきたので親バカ気味なたっとさん。あの天然真面目な性格は引き継がれなかったのか…、と思わなくもないけれど、馬鹿な子ほど可愛いらしいです。
勿論京一達の事も可愛いと思っているので、出来るだけお互いに穏便に済むよう天童を諭し中。
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12/ 11/4 |
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・剣風帖京主で直参 ・京主・天童外法主あり。 ・壬如・皆主あるかも? |
12/ 12/? |
冬コミ | -- |
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