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★諸注意★
・海神の後の話。『灰褐色の今』よりも後の話だけどだいたい50年後くらい?(THE★曖昧)
・その内尚六になる兆しがあるようでないようでありそうな話。
・六太さんが尚隆のこと、『灰褐色の今』とは違う意味で信用していません。
・それでも宜しければ続きからどぞ。





六太、と呼ぶ声に振り返る。
深遠の闇の中に白い腕が浮かび上がっていた。自分とその腕だけが燐光を纏っており、その他はただただ黒く塗り潰された世界だった。
六太、と呼ぶ声がする。
相手の姿は分からないのに、六太はそれが腕の主の声であることを知っていた。
六太、と呼ぶ声に、六太は何故か心が冷えた。唐突な孤独感に六太は思わず伸ばされた手を握り締めた。
しかし六太は首を傾げた。握り締めた手はぬるりと何かに濡れていて、妙に生温かかった。手に視線を落とし、六太はくらりと眩暈を起こす。――――手は鮮血に染まっていた。
途端に酷い血臭に昏倒しそうになる。
そのよろけた身体を誰かが支えてくれた感覚に、涙が出そうになった。しっとりと濡れた感触のする絹からは血の臭いに混じって知った匂い。薄れてしまった王気。

「俺で、最期なんだな?」

問う声にくつくつと笑う声が返る。

「共に、堕ちてくれるのか?」

お前だけは遺るか?、と囁かれた言葉に六太は笑った。

「嘘つき」

次の瞬間鈍い痛みと共に視界は真っ赤に変色した。

 

 

六太ははっと目を見開いた。
どくどくと早鐘を打つ胸の前を鷲掴み、前髪を掻き上げる。汗でべったりと張り付いた髪と衣がうざったい。
はあ、と深く息を吐く。
――――夢?
生々しい、と六太は一つ呻いて首に手を遣った。喉元を撫でながら傷一つない事を確認する。夢の中で簡単に裂かれた喉は勿論何ともなかった。

(胸糞悪い)

舌打ちした顎を汗が滑り落ちていく。
夢の内容を反芻する。
あれは、恐らく雁の最期の瞬間。少なくとも六太にはそう思えた。
朱衡は当たりかも知れない。ふ、と主と朱衡の出会いを思い出した。

(あいつはやっぱり滅王だ……)

六太は熱くなった目を両手で覆った。

 

 

「だから…何度言えば気が済むのだ」
「何度言われても気は済みません」

朱衡はにっこりと微笑んだ。対する王は、ちっ、と小さく舌打ちして玉璽を書簡に力任せに押印した。

「俺は身に覚えはないと再三言っておるではないか。どうして主君の言を信じない」
「主上が結構な人で無しだからでございますよ。ご存知ありませんでしたか?」
「それは存じ上げなかったが?」
「そういう所が人で無しなのでございます」

微笑を浮かべ紡ぐ声も柔らかなのに対して、その気配はどんよりと濁っていた。
それを逆撫でするかのように正面の主は椅子に踏ん反り返った。

「あれの考えている事なんて分かるか。仁に篤い麒麟の考えなんぞ俺などには分かるまいよ」

鼻を鳴らして天を仰ぐ。

「失道でもしたんじゃないか?」
「滅多な事を仰られますな!そのような事…あろうはずがありませぬ」

尚隆は朱衡を見返した。

「だが俺は人で無しなのだろう?」

朱衡は一瞬言葉に詰まった後、恥じ入るように袖口で口許を隠した。申し訳ありません、と俯いた朱衡に尚隆は手を振った。

「お前にまで辛気臭い顔をされては余計に気が滅入る。あの馬鹿の代わりに普段より三割増しで笑っていろ」

是、と応えて跪拝した朱衡を横目に尚隆は頭を掻いた。それで?、と問うと困惑した視線が返る。

「体調が優れないようで、臥牀に臥せられたままでございます。お心許なくいらっしゃるのか、知る人がお傍におつき申し上げていないと酷く怯えられて……」
「今は?」
「帷湍が。成笙には台輔の室を固めてもらっています」
「帷湍と代わろう。多少政務が滞っても文句を言うなよ?」

立ち上がった尚隆に、是、と応え、しかし朱衡は目許を伏せた。黙り込んだ朱衡に尚隆が視線を当てる。
朱衡は言い難そうにしながら視線を逸らした。

「お会いになりたくない、と」
「何?」
「台輔が、主上にはお会いになりたくない、と仰せです……」

尚隆は片眉を上げた。だからか、と一人ごちる。
朱衡が尚隆に絡んできていたのは、六太が尚隆を拒んでいたからだ。尚隆に何か原因があったから六太が不安定なのだと、朱衡は思っていた。
しかし当の尚隆自身は本当に身に覚えがない。その上ここ二、三日は会話らしい会話を六太とはしていなかった。今思えば向こうが故意に避けていたのかも知れない。
衣を翻し部屋を出て行こうとする主の背に、朱衡は顔を上げた。

「主上……」
「朱衡勅命だ、笑え」

一つ嘆息して、次いでニヤリと笑う。朱衡はきょとりと目を丸くした。

「勅命が守れない場合の罰は、王と台輔の仕事の肩代わりでどうだ?」
「……出来るわけありませんでしょう。ほら、さっさといってらっしゃいませ」

まるで追い払うように手の平を振られ、見送る朱衡の顔にくつくつと笑いながら主は部屋を出て行った。

「本当にどうしようもない方」

開け放たれた扉を見つめ、朱衡は困ったように一つ笑った。





小さく名を呼ばれ、臥牀から視線を転じた帷湍は、部屋の入口から手招きをしている成笙を見付けた。
ちらりと牀の中の少年に目を遣り、静かに寝入っている様子に席を立つ。どうした、と成笙の傍に寄り目を見開いた。成笙の陰にいた主の姿に瞠目した帷湍だったが、直ぐにカッと眉をつり上げた。そのまま主に詰め寄る。

「お前……今度は何をしたのだ!」

歯噛みするその肩を軽く叩いて成笙が首を振る。それに、しかし、と言い募り主をねめつけた。
しかし主は肩を竦めて見せると、成笙と同じように帷湍の肩を叩いて部屋の中へと入って行った。帷湍はその背を睨み拳を握り締めたが、成笙に促されて渋々室から離れた。
部屋の中に入ると、尚隆は臥牀の紗をめくり上げ、その端に腰を下ろした。
見下ろした先には陽色の頭。眉を寄せて苦しげなその頬に手を当てた。小さく呻いてうっすらと瞼が上がる。ぼんやりとした視線が尚隆の手に注がれ数度の瞬きの後、六太は一気に覚醒した。尚隆の名を思わず悲鳴のように小さく呟き、臥牀の奥へと後退る。

「六太」

名を呼ばれ肩がぴくりと震えた。
悪い、と呟いて視線を外す。

「我が儘言ってて悪い……」
「全くだ。お陰で朱衡の機嫌が悪くて敵わん。体調が優れんのならうだうだしていないでしっかり寝て治せ。帷湍達と遊んでいる場合か。奴らにだってやることはあるのだぞ」
「うん……ごめん」

俯いた頭に嘆息して、尚隆は腕を組んだ。一向にこちらに気を許す気配がない麒麟に内心苛立った。身に覚えのない事でこうも態度を変えられては迷惑だった。
だからついつい口調がきつくなってしまう。尚隆自身それではこの意固地な麒麟には逆効果だと分かっていても、叱り付けるような声音になっていた。

「俺を避けてる理由は何だ?」

これには無言が返る。
尚隆は舌打ちすると身を乗り出して六太の腕を掴んで乱暴に自らの方へ引き寄せた。
六太、と呼んで、伏せられた顎を掴んで無理矢理に上げさせる。尚隆は上向いた顔を見てもう一度舌打ちした。

「なんて顔をしておるのだ」

腰を抱き寄せ、自分の胸にその頭を押し付けた。すると縋るように六太の指が尚隆の衣を握り締めた。

「餓鬼が我慢なんぞするな。泣きたい時に泣け。我が儘も言いたければ言えば良い」

ぽんぽんと頭を撫でると、うん、と蚊の泣くような声が返る。ぐしくしと泣く声と必死に嗚咽を堪えようと震える肩に、尚隆は場違いな程安堵していた。
腕の中にしっかりと感じる体温が温かい。そんな事をぽつりと思った。
涙が零れ落ちそうな程潤んだ瞳を見た瞬間、何処か胸の奥の方が痛んだ気がしたのは気の所為だろうか?
尚隆、と掠れた声に背を叩く。

「ごめん」
「何がだ」
「選んでしまってごめん」

尚隆は腕の中の麒麟を見た。

「尚隆、今、苦しくないか?辛く、ないか?寂しくないか?」

真っ赤になった顔が尚隆を仰いだ。ぽろぽろと言葉と一緒に零れ落ちていく涙を拭ってやりながら、尚隆は優しく背を撫でた。

「雁が、斃れる夢を見た」

真っ黒に塗り潰された世界。そこにある最期の色は、真っ赤な血の色と、自分の色だけ。
全てを壊し尽くした王の言葉に、六太は自分の最期を悟った。
声とは裏腹に、苦しそうに笑った王をそれ以上哀しませたくなくて、六太は一緒に死ぬ事を選んだ。
――――一緒だったら、きっと寂しくないだろ?
寂しくさせたのは自分だ。苦しくさせたのは自分だ。

「尚隆、俺を一番にして。全部が辛くなっていらなくなったら、一番に俺を殺しにきて。それで終わりにしろ。俺が一緒にいくから」

尚隆も国も大事だった。王と麒麟が斃れれば国は傾くだろうが、跡形も無くなってしまうよりはましだ。
自分でも馬鹿みたいだと思う程、麒麟らしい選択だと思った。どれも大切で大好きだから。
ただ、一緒に死んでやる事しか出来ない自分が悔しかった。

「ごめん。選んでしまってごめん。ごめ、ん…っ」

拭っても拭っても溢れる涙は止まらない。六太は一つしゃくり上げると、畜生、と呻いた。

「絶対、今…顔、あ、合わせたら、こうなるって分かっ、てたから、逃げてた、のに…っ――こう、いう時ばっか、会いにくんなよ、尚隆のばかぁ!」

成る程、と苦笑混じりの声が降ってきて六太はまたしゃくり上げた。

「優しくすんなよ、止まんないだろ…!」
「全く。お前は何でもかんでも深刻に考え過ぎだ。抱え込むな。何の為の王と麒麟だ」

踏ん反り返った尚隆の髪をぐいと引っ張って、六太は顔をぐじゃぐじゃと尚隆の服で拭いた。それにくつくつと笑う声がした。

「六太」
「ん」

ほれ、と差し出された手。六太はきょとん手を眺め、尚隆を仰いだ。すると片手を取られてぎゅっと握り締められた。

「こうしておれば、いつでも一緒だろう?この距離ならお前なんぞ直ぐにくびり殺してやれるしな」

破顔した尚隆と繋がれた手を交互に見遣って、六太は真ん丸に目を見開いた。

「不満か?」

ぱちくりと瞬いてふるりと頭を振った六太を見て、そうか、と尚隆は目を細める。そして一つ嘆息した。

「それにしても雁が斃れるだと?縁起でもない」

無言で俯いた頭を撫でて、尚隆は六太の顎を引いた。真正面から紫暗の瞳を覗き込む。

「六太、もう一度言うぞ?」

拗ねたような声音に六太は瞬いた。

「俺に任せて置け」

そしてぱっと離された身体。立ち上がった尚隆は憮然とした表情で六太を見下ろした。

「だから、さっさと起きて来んか…………仕事が溜まっているのだ。手伝え」

良いな、と言って踵を返す尚隆の袖を掴んで六太が引いた。尚隆、と可笑しそうな声が呼ぶ。
何だ、と振り返れば、泣き笑いの顔が首を傾げた。

「今、苦しくないか?辛くないか?寂しくないか?」

すると尚隆は不機嫌そうに眉を顰めて首を振った。

「お前も何度言えば信じるのだ。任せて置け、分かっておるのか六太?」

唇を尖らせた尚隆だったが、うん、と抱き着いてきた麒麟に眉を下げた。

「一緒に行く。手伝う」

嬉しげな顔が妙に居心地が良くて、尚隆は頭を掻いた後、六太の頭を指で弾いた。

「まず着替えて来い」

痛いな、と言いながらも笑顔の麒麟に鼻を鳴らし、尚隆は小突いた頭を乱暴に掻き撫でた。


 
尚隆が王としてしっかりしていけばいく程「無理させているのかも」と、どんどん不安になっていってしまう六太さんの話。
尚隆さんはその辺がちょっと悔しい。「まだこいつは信頼してくれんのか」と。麒麟の信頼がそろそろ欲しい今日この頃。
朱衡→尚隆っぽいですが、あくまで臣下として。うちは帷湍×朱衡ですから!(どーん)
六太の次に心配の対象となるのが朱衡さん。何かと色々と大変なので。
気遣うという特技レベルが上がってきた尚隆さんは朱衡もちゃんと気に掛けるようになりました。成長したね(涙)

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