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★諸注意★
・東京鬼祓師で、主人公×壇です。
・主人公の名前はデフォルトの「七代千馗」。
・壇LOVE、壇一番で、優先順位の最上位はいつも壇。
・壇も満更ではないが、恥ずかしいので唯の『親友』と言い張っている。
・二人の関係は周知の事実。
・『自分が嫌になる時』より後の話。
・またもや暗めですが、それでも宜しければ続きからどぞ。




 


千馗は眼を必要以上に見られるのを嫌がる。
秘法眼と言うらしいその眼は、自分には見ることの出来ない世界が見えるらしい。
常の瞳は、クォーターだと云うだけあって紫の混じる綺麗な青色なのだが、秘法眼とやらを使うと色が変わってしまう。
初めてそれを見せてくれた時、千馗は、気味が悪いだろ、と笑っていたが、肩が震えていたのを俺は知っている。

「俺より先にサボりかよ」

屋上の扉を開けると、床に座り込んで携帯を弄っている姿が見えた。
朝のホームルーム後にふらりと消えたので何処に行ったのかと思えば、サボり常習犯の自分より先にしっかりサボっていた。
んー、と云う生返事が返った事で、当分教室に戻るつもりがないのであろう事を知る。近付いても特に反応は返って来なかった。
――――俺もサボるか。
隣に腰掛けてそのままぱったりと倒れ込む。すると、くすりと微笑が聞こえた。

「甘えてるの?」

携帯から眼は離さず千馗が笑った。

「燈治、そんなに簡単にくっつかれると困るんだけど?」

襲うぞ、と不穏な物言いに少しだけ転がって離れると、それにまた苦笑が零れた。
冗談だ、とやっと携帯から眼を離した千馗が手を伸ばした。額に触れて、そのまま前髪を梳かれた。

「燈治、こっち見て」
「あ?」

呼ばれて寝ながら千馗を仰ぎ見ると、覗き込んでくる瞳とぶつかった。

(自分からは見てくるくせに…)

顔を近付け、顔に掛かる髪を額から避けながら、千馗がじっと瞳を覗き込んでくる。
陰の中でも、海面が光を反射するようにきらりと光る瞳は、とても綺麗で燈治は好きだった。

「燈治の眼、本当に綺麗だよな」

髪を梳いていた指が頬に添えられた。親指で目尻を撫でる。くすぐったくなって思わず眼を瞑ると、瞑らないで、と瞼を撫でられる。それならやるな、と言いたい。千馗はくすぐったい事が分かっていてやっているのだ。

「お前も飽きないな」
「ん?」
「俺みたいな眼はその辺探せば五万といるだろ」

楽しげな千馗の前髪を引っ張って少しだけ抵抗してみるが、その手を取られて、逆に指にキスされてしまった。失敗した、と眉を寄せると、にっこりと千馗が微笑んだ。

「俺は燈治の眼だから好きなんだ」

頭の中に滑り込んできた台詞が上手く処理出来ず、燈治はぱちぱちと瞬いた。そして一拍後にかっと頬を朱に染めた。

「そういう恥ずかしい事をペラペラと、お前はどうして、いつも――っ」

二の句が告げずにぱくぱくと口を開閉させるが、直ぐに燈治は嘆息して前髪を掻き上げた。噛み付いてもにこにこと笑っているような奴に、何を言っても多分無駄だろう。しかし、だからと言って簡単に引き下がるつもりもなかった。
燈治は上半身だけを起こして千馗の首に腕を回して引き寄せた。

「千馗、眼見せろ」

ぱちぱちと千馗が瞬いた。そして、急に何だよ、と笑って誤魔化そうとする。

「俺の眼なんて、気持ち悪いだけだろ」

声が震えているのに、本人は気付いているのだろうか?
燈治は首を振ると、もう一度、見せろ、と千馗の眼を覗き込んだ。

「俺だって、お前の眼が好きなんだよ」

千馗が一瞬困ったように笑った。

「面白いもんでも、ないと思うんだけどなぁ」

そうぼやきながらも力を抜いた千馗が、静かに瞳を見返してくる。燈治は首に回した腕を解いて、千馗の両頬に手を添えた。
海の青でも、空の青でもない、千馗の青が好きだった。
綺麗だな、と知らずに口にすると苦笑が返ってきた。腹を括ったのか、逃げる素振りのない千馗に、燈治はもう少し踏み込む事を決めた。

「千馗、見せてくれ」

ぴくりと千馗の肩が動いた。
先程までとの意味の違いに気付いたのだろう。途端に眉を顰める。しかし、睨み返した燈治の視線が自分の眼から逸れる事はなく、逆に温かい眼に堪えられなくなって自分の方が先に逃げてしまった。
負けたなぁ、と内心で深く息を吐く。

「仕方ないなぁ、燈治は。反則だよ、その熱い視線」

千馗は燈治の両手を取って自分の眼を覆い隠すように動かした。

「この手を外したら、変わってると思うから」
「あぁ」

唯歩いている時や、闘ってる最中でさえ自然と使い分けている筈なのに、そう前置きした千馗に燈治は小さく頷いた。
見られたくないのだ、本当は。せめて変化する瞬間だけは見せたくない、と云う事なのだろう。
燈治はゆっくりと両手を頬の方へとずらした。下りていた瞼が段々と持ち上がっていくにつれ鮮やかな朱色が姿を見せる。

「――綺麗だ」

濡れたように光るそれに思わず溜め息が零れた。
そうかな、と細められた朱色がまた違った美しさを持っていて、燈治は半ば酔ったように千馗の瞳を見つめた。
人口物とは思えない、綺麗な朱。
そう、まるで――――

「血のように朱い夕日みたいだろ?」

笑顔の千馗に眼を見張る。
くすくすと微笑するその声が震えている。
燈治は首を緩やかに振った。

「千馗」
「もう気は済んだか?」
「千馗違う…」
「面白かったか?」

ゆっくりと眼を瞑ってしまった千馗に燈治は歯を食いしばった。千馗、と悲鳴じみた声で呼んで、千馗の頬を引き寄せながら上半身を起こした。

「…と、うじ?」

一瞬触れた唇の感触に瞬く。千馗は燈治をきょとんと見下ろして眼を見張った。

「俺は、お前の眼が好きだって言っただろ。それなのに、お前がそんな事、言うんじゃねぇ!血みたいだとか、夕日みたいだとか……悲しい事、言うなよ…」

上手く言葉に出来ず、燈治は喉を詰まらせた。
悔しい。そんな事を言わせたかった訳じゃない。それなのに、何て言ったら自分の気持ちが伝わるのか、分からない。

「夕日なんて、あとは沈むしかないだろ……縁起の悪い事言うな。俺は、そんな事、思ってないっ」

悔しくて、悔しくて、涙が出そうになって、両腕で顔を隠すと、燈治、と優しい声で呼ばれて、次いで腕を撫でられた。

「泣かないで」

泣いてない、とくぐもった声で返す。しかし、腕を撫でる手は止まらなかった。
そのまま燈治が気持ちを鎮める間中ずっと撫で続け、やっと深呼吸したのを確認してから、千馗はそっと燈治の腕を解いた。

「燈治」

目尻が赤くなっているのに苦笑する。
そんなに一生懸命に自分の事を想ってくれる燈治を、千馗はいつも眩しく感じる。嬉しくて堪らないと言うのは、きっとこんな気持ちに違いない。
燈治につられて、思わず目頭が熱くなった。

「燈治は、俺の眼、どう思う?」
「好きだ」

間髪入れない応えに眉を下げて笑う。

「じゃあ、何処が好き?」

甘えるような声音に自ら苦笑する。燈治も気付いたのだろう、小さく口の端が笑った。

「その色が好きだ。朝焼けの綺麗な朱が、お前みたいで…」

始まりを告げる朝日のような凛とした色。千馗は気付いていただろうか。自分達にとって千馗自身が、眼の色と同じ朝日のような存在だと云う事を。
――――お前がいたから、頑張れたんだ。

「知ってるだろ。朝焼けは夕焼けなんかより、断絶綺麗な朱なんだぜ」

何度も洞に潜って共に朝帰りをした仲だ。知らない訳がない。
おどけたようにニヤリと笑った燈治に、参ったな、と千馗は眉を下げた。

「完敗だよ、とぉじ」

油断していた燈治の鼻先に、千馗が素早くキスをした。
一拍後に真っ赤なって叫んだ燈治の声は、同時に鳴った授業の終了を告げるチャイムに掻き消されて、千馗以外の誰の耳にも届かなかった。



ぶっちゃけると、ただじゃれてるだけな話。
傍から見たらイチャついているようにしか見えない(笑)
「お前の眼が好きな奴がいるって事、ちゃんと分ってろよ」と言いたい燈治。でも千馗は眼の色ぐらいで良い年した男がうだうだ悩んでいることが恥ずかしいので、皆が自分の眼に嫌悪を抱いていない事は分かっているけれども、敢えて明るく振舞っています。それが、燈治には気に入らない。
もっと弱みを見せてくれたって良いのに、と常々思っています。
それから秘法眼時の眼の色ですが、完璧に捏造です。趣味丸出しです。初めから『血の様な夕日云々』『朝日のような云々』がやりたくて朱色です。赤でもなく紅でもなく朱色です。
金色とか色々思ったのですが、やはり赤(朱)にまさる不気味さと綺麗さはないだろうと思いまして。公式で別の色出ちゃっても開き直ってうちはこの色です(笑)
因みに千馗が眼の色を知っているのは、両親から教えてもらっていたり、他の秘法眼持ちのいちるや零の眼を見ていたから。確か鏡越しでも自分じゃ見れないという設定が何処かであったような気がしたので、うちでもそんな裏設定です。

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