・剣風帖で京一×主人公です。
・主人公の名前はデフォルトの「緋勇龍麻」。
・剣風帖第六話『恋唄』の話。
・それでも宜しければ続きからどぞ。
初めは、と静かに語り出した龍麻を後ろから抱き込むようにしながら、京一はそっと龍麻の髪に頬を擦り寄せた。
「不思議な子だな、って…だけで……何度か会って、流石に、何か俺に、用がある…って、分かって。…でも、放っては、置け、なくて……。罠だ、って…わかってた、けど……」
けれど、戸惑っているかのような苦悩を時折見せる彼女に、龍麻は力になってやりたかったのだと言葉を続ける。
「彼女の、お兄さん……結局、鬼道衆に、色々吹き込まれてた、だけで…本当は悪い人じゃないと、思う。両親が目の前で…………だから、生きたいって、思いが、強かった。……俺は、紗夜も、お兄さんも、助けたかった」
でも、と続けようとして、不意に龍麻が顔を伏せた。次いで、京一、と静かに名前が呼ばれた。
京一は無言で龍麻の頭を引き寄せると胸に凭れる掛けさせた。その京一の手にぽたりと雫が落ちて、龍麻が震えたのが判った。
「京一、……ったすけられなかっ…た……!」
ぐっと息を詰めた龍麻がまた俯いた。京一からは陰になってしまう顔を更に手の平で覆い隠して、自らの瞳から溢れる涙を押し殺す。
京一は唯、ぽんぽんと二度肩を叩いてやった。
「ご、め…っ」
優しげに撫でる京一の手に、嗚咽を堪えながら龍麻が口を開いた。しかし、それ以上は続けられず、縮こまるように一層俯く。
京一は撫でる手を止めてやんわりと龍麻の胸を片腕で支え起こし、尚も顔を覆ったままだった龍麻の両手に触れた。途端に嫌がるように龍麻が身じろぐが、京一は構わずに両手を取り上げて、自分の方へと龍麻の身体の向きを変えさせた。
「……龍麻、さっき俺は、泣いた顔が…って、言ったけどよ、無理して泣くの堪えられんのはもっと苦手なんだよ」
言って、京一が龍麻にそっと笑った。両手を封じられてしまって表情を隠す事が出来ない龍麻は、京一の笑みに小さく顔を歪めた。
「龍麻…泣きたくねぇなら止めてやるし、泣きたいなら俺に気にしねぇで泣け。…大丈夫だから。お前の全部、俺に見せてくれ」
京一が拘束していた腕を離すと、龍麻がより表情を曇らせた。くしゃりと、しかし綺麗に顔を歪ませ、ボロボロと溢れ出した涙を拭う事なく、龍麻が京一の名を呼んだ。それに京一が両腕を広げて優しく瞳を細めた。
「きょ、ぉいち…ぃ…っ」
堪らずという風に、龍麻が京一の胸に手を伸ばした。ん、と頷いて京一も龍麻の腕を引くと胸の中へ抱き留めた。京一の胸に、温かい息と雫が広がった。
「だいじょーぶ…」
わぁわぁ、と、泣き崩れる姿は普段の龍麻より子供っぽくて、しかしその激しさに龍麻の深い想いが感じられて、逆に龍麻らしいとも思えた。
惚れた弱みだ。判っている。
苦手だけれど、そんな龍麻の姿も、やはり愛しいし、好きなのだ。
龍麻の全てが好きだ。
「好きだ。龍麻。…俺だけじゃねぇ。皆も、お前が好きだよ。紗夜ちゃんだって、お前が好きだったよ。言ってたろ?出逢えて良かったって…………救われてたよ。だから、ちゃんと笑ってた……」
笑ってたよ。
言って、京一の頬からも、つっと一筋涙が伝った。龍麻に引きずられたのかも知れない。 気付かなかっただけでやはり龍麻と同じ様に自分も堪えていたのかも知れない。
それくらいに壮絶な最期だった。
二度三度言葉を交わしただけの自分が堪えているのだ、ならば少しばかりとはいえ付き合いがあり情の厚い龍麻の哀しみは如何程であろうか。
龍麻の背を抱き寄せて、京一はその細い肩に顔を埋めた。
「きょう…いちっ」
京一の様子に気付いたのか、龍麻の腕が強く京一の背に回された。ぎゅっとシャツを手繰り寄せ声を圧し殺すように名を呼ぶ。
優しい優しい龍麻。
震えながらも、ちゃんとその腕からはこちらを案じる様子が伝わって。
何か言ってやりたくて。何か伝えてやりたくて。
しかし、京一の口からは龍麻と同じ様なくぐもった吐息しか出てこなくて。
龍麻の気持ちが移ったかのように、切なくて、恋しくて、哀しくて、愛しくて胸がそんな気持ちで一杯になって、京一は抱いた腕に力を込める事しか出来なかった。
(弱ぇなぁ…)
慰めようと思ったのに、引っ張られて自分も泣き出すなんて、自分もまだまだだと改めて考えてしまう。
そんな自分だから。そんな二人だから、一緒に乗り越えていけば良いのだろう。
一緒に、歩んでいけば良いのだろう。
未熟な二人だから、一緒にいれば一人前の筈だから。
「たつま…っ」
呼び掛ければ、鼻声混じりで、うん、と返事が返った。
京一はそんな龍麻の背から腕を離すと、ふわりと赤くなった両頬に手を添えた。濡れた黒珠がゆっくりと京一を映す。
「おれ、絶対…お前をまもるから……ずっと、一緒にいるから……だから…」
ふ、と。続けられるはずだった言葉はそのまま繋がった吐息に紛れて宙に舞った。ゆっくりと、唇から温かさが離れて、遮ったそれが小さく弧を描いた。鼻先が触れて、視線が交わる。しっとりとした黒珠が、微かに細められた。
「…うん。……ずっと、一緒に……京一…………一緒に、いよう…」
言って、久方ぶりの柔らかい笑みが龍麻の顔に浮かべられた。
目尻は赤くなっていて、涙の跡で頬はぐしゃぐしゃだったけれど、京一は一つ鼻を啜ると、龍麻に負けないようにと精一杯の笑みを浮かべ、その額に唇を寄せた。ちゅっ、と可愛らしいリップ音を響かせた京一は龍麻に向き直り、泣いた所為ばかりではない赤くなった頬にも一つキスを落とした。
「龍麻、好きだ」
全部二人一緒なら、大丈夫だから。
弱ってる子を書くのは楽しいです。弱ってる子を書くのは本当に楽しいです。
大事な事だから復唱しました。
今回は京一もセットで(笑)いや、本当カッコイイって何?な回。
こ、これからですよね!京一はこれから!…ね!
最後に。ここまで長々とお付き合いありがとうございました!
また引き続き短編の方で宜しくお願いします!
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