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★諸注意★
・九龍妖魔學園紀で皆守×主人公です。
・主人公の名前はデフォルトの「葉佩九龍」。
・続きモノです。
・それでも宜しければ続きからどぞ。





It's a beautiful days.⑥『五里も霧中』

 

 

「おはよう」

いつも通りの重役出勤。
既に昼休みに突入した學園の廊下は生徒達でやはりいつも通りの賑わいだ。その喧騒を避けるように屋上へ続く階段をやや早足に行く皆守の背に、軽い足音と共に挨拶がかけられた。振り返るまでもない。脳裏には既に相手の顔が浮かんでいる。

「…よぉ」

それでも振り返ったのは、声高には言えない関係になった事で相手がどういう反応をするかが気になったのと、単に惚れた弱みだった。

「今から屋上?昼ご飯買ったの?」

振り返った先の顔は常と変わらないように見えた。
子犬がじゃれつくように腕に自らのものを絡め、ぴったりと身体を寄せてくる。

天真爛漫。

そう形容されるであろう顔で無邪気に微笑む。
不意に、抱き寄せてその忙しなく動く唇を塞ぎたい衝動に駆られた。
昨夜のテンションの名残か、はたまたこれも惚れた故か。
じっと見ていたからであろう。何かついてる?、と葉佩が唇を手の甲で拭った。

「…おい、何もついてないからそんなに強く擦るな。赤くなるぞ」
「ホントに?乾燥気味で唇カサカサになってるから気になっちゃって。やっちーに薬用リップ貰ったんだけど……」

手の甲だけでなく指先でも唇を弄るものだから、段々と唇が赤く色付いていく。余計に目線がそこから離せなくなってしまう。理性と本能の天秤をグラグラとさせながらも、なんとか世話焼きな性格が勝って注意すれば、赤い唇を尖らせて葉佩が睨み返してきた。
曰く――――。

「甲ちゃんがキス魔だった所為なんだけど?」

腫れた、と。
言って、目の前に迫っていた屋上への扉を開ける。サッと吹き込んだ秋風に一時停止した頭が機能を再開した。はたと瞬く瞳に猫のように悪戯っぽく笑う顔が映る。
からかわれた、と理解し、しかし紅潮していく頬を止められず、せめてもと給水塔前にいち早く座り込んでいた男から顔を背けた。

「甲ちゃん。別に恥ずかしがらなくたって良いんだよ?寧ろ甲ちゃんも健全な男子高校生なんだって事が判って俺は安心したよ。三大欲求偏ってなくて良かったーって」
「……ほっとけ」
「甲ちゃんは欲深いよね。食欲も睡眠欲も性欲も。ドライに見えてすっごく情熱的。まぁ、食欲は嗜好が偏ってるけど」

笑って目を細めた葉佩が不意に顔を寄せてきた。思わず強張る身体に、至近距離まで近付いたそれは一瞬喜色とは別の色を含んで細められ、しかし瞬きの内に常の猫のような笑みに隠された。
動態視力と洞察力が、それを見逃さなかった。

それは、怯えと期待だった。それが他の感情とごちゃごちゃになったような目をしていた。

何に対してのか、判らなかった。
触れたいという欲求に勝てず、葉佩を抱いた。堕ちた。
自分を篭絡させる為に、葉佩が仕掛けた罠。
あっさりはまって、今まで以上に葉佩に感情を左右され始めている自覚はある。

葉佩の策は成功したのだ。

もっと振り回して、惚れた弱みに付け込んで来るかと思ったが、先程の顔は何だ。どうしてお前が悩むんだ。どうしてそんな複雑な顔をするんだ。

「酷いな。俺の事好きでしょ?」

笑う顔にまたもや確かな陰りを見付けてしまい、知らず眉間に力が込もる。寄せた距離をそのままに、葉佩は尚も小首を傾げて愛想良く笑っている。
それが堪らなく癇に障った。

「好きで悪かったな…っ」

数センチの距離を詰めて、驚きに半開きになっていた唇を掬い上げるように奪う。
角度を変えて深く繋げ、そしてカサついた唇に噛み付いた。ビクリと細い肩が揺れる。しかし、顎を指で掴まえてしまうと、諦めたかのように葉佩の指がそっと腕に添えられた。

――――そう、諦めたのだ。

仕方なく、付き合ってくれているだけなのだ。
唯の、アフターケア。…そんな事、重々承知の筈で自分で仕掛けて置いて。

好きだ。好きだ。好きだ。
愛してるんだ。

伝われば良い。
と。
必死になっている。
伝わってくれと、願ってしまう。

束縛出来る権利が欲しい。
自分だけのものになって欲しい。
どんどん膨れ上がる欲求は、直ぐに歯止めが効かない域に達してしまう事だろう。しかし、もうそれでも構わないと思うのだ。
眼を閉じれば暗闇に浮かぶ墓標がある。それは彼のものか己のものか。
結末は二択だ。そしてたった一つだけなのだ。
だから、このまま胸の内を焦がす炎に巻かれてしまったって構わないと思った。

「、甲太…郎っ」

長い口付けに、葉佩がやんわりと胸を押してきた。気付けばお互いの息が荒くなる程の間、葉佩の唇を拘束していた。
離れて、息を吸って、吐いて。
その間も交わったままだった視線を先に外したのは、やはり葉佩の方だった。
俯いて口許を片手で拭いながら、葉佩が突然立ち上がった。

「九龍…っ」

流れるように踵を返して駆け出した背。
制止の声は、届かなかった。

「――くそっ、何だってんだ…!」

独り残された屋上に、また冷たい秋風が吹き抜けた。その所為で身体に纏っていた花の香りは散り散りになってしまったというのに、鼻先には未だ硝煙の臭いがこびりついて離れなかった。





一方通行ぱーとつー。
ネガティブ炸裂・フィーバー中の甲太郎氏は書いててホント可哀想になります。
途端に捏造未来とか書きたくなる。くっついた後が書きたくなるわけです。
堪え性が無くて申し訳ない。
それから『葉佩か自分か』と葛藤している所ですが、ウチの甲ちゃんは8割方自分が死ぬ気です。2割で葉佩が負けたとしても、後追いする気です。
そんな甲ちゃんを、ちゃんとこれからウチのアレが救えるのかと考えると甚だ疑問ではありますが……。
頑張れ葉佩。

続きます。

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