このSSは5/3のスパコミにて発行する予定の「それは在り来りのお話」(コピー本)の前半の一部を抜粋したものとなります。
通販、またイベントでの購入の際の目安にしてあげて下さい。
★諸注意★
・氾王×延王です。
・格好良い尚隆はいないと思って下さい。事実いません。
・受尚隆どんとこい!!な方は続きからどぞ。
まあるい月が照らす日だった。
尚隆は杯を傾けると、その中の透明なそれを口に含んだ。
――――旨い。
本当に非常に残念ながら、旨い酒だった。
こんな場所ではなく、自室で一人きりで呑めばもっと愉しいのだろうな、と乾いた笑いが零れる。
「何を笑うておるのだえ?」
揶揄を含んだ声を聞き流し、尚隆はまた杯を呷った。それにくすくすと可笑しそうに声が笑った。
尚隆は気配で相手を窺うと、内心で盛大に溜息をついた。
(何故こいつと酒を呑まなければならんのだ)
泣きたい……。
品良く配置されている一級の調度品に囲まれ、尚隆は落ち着かなげに何度も酒を呷った。かつんと杯を置いた円卓も、美しい細工が縁を飾り、並んだ食器類も薄藍で統一されていて、尚隆から見ても相当値の張るだろう代物ばかりだった。
そして円卓の反対側には、まるで精巧な細工人形の如きこの部屋の主が座っている。豪奢な扇子を口許に当て、じっとこちらを見ている姿は、尚隆には幽鬼のようにしか見えない。
――――範西国国主、呉藍滌。
尚隆にとって天敵のような存在だった。
顔を合わせれば嫌味の嵐。尚隆の方が何百歳も年上だと言うのに公然と罵倒したり手元の扇で撲ってくる。
苦手なんて可愛らしいものではない。はっきり言って、大嫌いだった。くたばれ、とさえ思う。
「たんとあるのだから、そのように慌てて呑まずとも心配無用。全くいつも品がないねぇ」
扇子の陰で、ころころと喉を鳴らす藍滌を、尚隆はぎろりと睨み付けた。
「だったら俺をここから出せ!」
かん、と高い音を響かせて杯を置いた尚隆は、苛立たしげに目の前の麗人を見た。しかし平然と敵意の視線を受けとめ、藍滌は密やかに笑う。その口が否だと告げた。何故だ、と尚隆は身を乗り出し眉を吊り上げた。
「何故?国内で問題を起こした者を罰しもせずに保護したのだから、少しぐらい私に付き合うても可笑しくなかろう?私の国だもの。私の好きなようにするよ」
「それが他国の王…しかも先達者に対する態度か!」
「本当に可笑しな事を言うね。私の国にいる以上、お前は、私のものなのだから、そちらこそ態度を改めるが良かろう?」
にこりと笑った藍滌に、尚隆の全身が粟立つ。何?誰が?誰のものだと?
乗り出した身を恐々下げながら、尚隆は内心泣きたくなった。自分の愚かさに。
珍しい技術の多い範国は、尚隆にとっても宝の山だった。何か盗めるものはないかと市井見物をしていてたまたま喧嘩を吹っ掛けられ――――うっかり買ってしまった。
派手に立ち回ったお陰で直ぐに御用となり牢に放り込まれ、どこから嗅ぎ付けたのか、釈放しに来たのは範国国王張本人。……あの時の獲物を前にした妖魔の如き微笑が忘れられない。
羽目を外し過ぎた、と悔やんでも、悔やみきれないを通り越して既に泣きたい。
「だからもう少し付き合って貰おう。良いね?」
尚隆は杯を置くと、鼻で笑った。
「晩酌に付き合うだけで解放されるとは思わんが?」
「ほぅ?」
「おおかた他に思惑があるのだろう?隠しても無駄だ」
藍滌は口許に手をやって少し考えるようにしてから、ちらりと尚隆に視線を戻した。
「朱衡を私に譲れ」
「却下だ!」
「あの官吏は良いね。教養高く品もあるし有能。何より大変美しい。お前には勿体ない」
「だから却下だと言っているだろうが!」
尚隆は円卓を殴った。
「力ずくで出て行かせて貰おう」
立ち上がった尚隆を全く気にした様子もなく、藍滌は小さく首を傾げた。
「では仕方ない。仮は身体で払って貰おう」
うんうん、と頷いた藍滌に、尚隆は笑った。
「他国に来てまで仕事なんぞするか。どこへでも売り飛ばしてみろ。絶対に逃げてやるからな」
裏を返せば藍滌と一緒だと逃げられない、と言ったも同然の台詞を吐いた尚隆に、当のお相手の藍滌は広げた扇をひらりと広げた。
「ほんにおめでたい男だね」
「あ?」
振り向いた尚隆は、一瞬視界がぼやけたのを感じた。
正面の藍滌に動きはない。しかし、ひらりひらりと扇を弄ぶ姿が時折ぶれて見えた。
(……?)
目を擦ってみて、やっとそこで異変に気付く。――――手が痺れる。
「そんなに簡単に行くまいと思うていたが、取り越し苦労だったようだ」
円卓に手を付いて尚隆は頭を振った。ずるりと身体が傾いだ。力が零れていく感覚に思わず舌打ちをした。
「きさま…っ」
椅子に逆戻りした尚隆がその背にもたれる。舌ももつれてきて、上手く言葉にならない。
藍滌は扇子をぱちりと閉じると、にっこりと笑んだ。そして円卓の上に並んだ食器類を自ら片付け始めた。
「新しい薬でね。無味無臭、大怪我をした者の感覚を麻痺させて楽にする代物だ。仙にも効くよう調合したのだよ。仙と言えども怪我をしないと言う保障はないからね」
かちゃり、と陶器同士の小さく可愛らしい音がする。どうしてか尚隆には、その音が不吉な気がしてならない。
「おれは、けがなんぞしとらんが?」
抵抗する力もぎりぎりだった。背もたれに寄り掛かりながら虚勢を張ってみるが、ついにそのまま円卓に突っ伏し、くたりと頭を垂れる。
「試してみたかったのだよ。なに。頑丈そうなお前の事だもの。一日二日で効果は抜けるだろう」
「…げやくをよこせっ」
「何故?必要なかろう」
歯軋りするような呻きに藍滌はひっそりと笑った。
「これからお前は私に弄ばれるのだから」
続きは本でね★
この後めくるめく官能の世界になります(笑)
超超超(エンドレス)素敵な挿絵もばっちり付いて参りますので、お買い求め宜しくお願い致しますっっ
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