★諸注意★
・東京鬼祓師で、主人公×壇です。
・主人公の名前はデフォルトの「七代千馗」。
・壇LOVE、壇一番で、優先順位の最上位はいつも壇。
・壇も満更ではないが、恥ずかしいので唯の『親友』と言い張っている。
・二人の関係は周知の事実。
・『株価の成り行き』の続きものです。先にそちらをお読み頂いた方がより楽しめると…思い、ます。
・前回よりラブ度は低めですが、それでも宜しければ続きからどぞ。
「マスター、洗濯機とドライヤーと、あと着る物貸して下さーい…」
かららんと軽やかなチャイムと同時に入ってきた客に、澁川はコーヒーカップを磨く手を止めた。同時にカウンター席から鈴のように可愛らしい声が上がる。
「千馗さんに壇!?びしょ濡れでどうしたんだ!?」
「やぁ、輪」
駆け寄ってきた少女の額を撫でて遣りながら、千馗はカウンター席へと瞳を転じた。呆気に取られた様子の端正な顔が、こちらを見ながらぱちぱちと瞬いている。
「絢人も元気そうだな」
「…君達は寒そうだね」
あはは、と笑う千馗をマスターが手招いた。辟易した様子で口を閉ざしていた燈治がそれに軽く会釈する。
「奥に案内、しよう」
「ありがとうございまーす」
店の奥に連れられて行く二人を眺めて、絢人は肩を竦めた。隣で輪が、僕にも何か手伝えないかな、と心配そうに呟くのが聞こえて、気を付けた方が良い、ともう一度肩を竦めた。
「馬に蹴られてしまうよ」
助かりました、という安堵の声に、輪はぱっと顔を上げた。
「暖房機具まで済みません。お陰で直ぐに乾きそうです」
いや、と短く応えて目を細める店主に再度頭を下げると、ぱたぱたと軽い足音が近寄ってきた。千馗さん、と腰に飛び付いてきた少女に、千馗は微笑んだ。
「どうした?」
「僕にも何か手伝える事はあるか?」
「手伝い?」
千馗は輪に向き直り、うーん、と首を傾げた。
「じゃあ、髪の毛乾かして貰おうかな。ね?」
濡れた髪を一房摘むと、うん!、と元気に返事をして、マスター!ドライヤーを貸してくれ!、と店主に駆け寄って行った。
それを微笑ましく見遣る千馗に、済まないね、と絢人が声を掛けた。
「余計な手間を掛けさせて」
「どうせ乾かすつもりだったから。それに人にやって貰った方が楽だし」
笑う千馗に、絢人は、そう、と苦笑した。そして小さく首を傾げる。
「壇は?」
「今、奥で着替えながら髪の毛乾かしてる」
着替えねぇ、と、カウンター席に腰掛けた千馗を上から下へ見遣って、絢人は意味ありげに微笑んだ。それに、何?、と千馗が首を傾げる。
「いや、別に…?」
「気になるだろ」
「いやいや、本当にたいした事ではないんだけれど…」
「――壇!ドライヤー貸してくれ!」
輪の声に二人揃って顔を上げる。丁度燈治が奥から出て来た所だった。
「ドライヤー?何に使うんだよ」
「千馗さんの髪を乾かしてあげるんだ!」
「あぁ」
頷いた燈治は千馗をちらりと見た。次いで、頼むな、と輪に笑ってドライヤーを渡す。任せとけ、と元気良く千馗の元へと走って行く姿が、まるで鞠が跳ねるよ
うだ、と可笑しく考えつつ燈治も後に続く。千馗の隣まで歩いて来て、先に悪かったな、と声を掛けると、呆けたように千馗が自分を見ていた。
既に店主から電源を借りた輪に隣の席でドライヤーの温風を浴びせ掛けられながら、視線を上下させる千馗に首を傾げる。
「どうした?」
「…………いや、別に…?」
そっくりそのまま自分の台詞を辿る千馗に、絢人が堪え切れず笑いを零した。それがまた意味が分からず、燈治は片眉を上げる。
「何だよ二人して」
「いや、どうと言う事はなくて。千馗が壇には無条件降伏なんだって話さ」
「はぁ?」
更に意味が分からないとばかりに眉を寄せる燈治に、千馗は、こういう事か、と一人頷いている。
はっきりしない二人に気持ち悪さを残しつつ、壇は取り敢えずカウンター席に腰掛けた。コーヒーで良いか、と店主に尋ねられ素直に頷く。と、何かに気付いた
様に、店主が目を細めた。
「?」
「やはり、少し大きかった、か…」
「ん?…あ、あぁ。いや、でも、これくらいなら全然…」
しどろもどろに応える燈治を見遣って、それから千馗に視線を移し、絢人は口だけで笑った。
二周りは大きいシャツとジーンズを無理矢理着ている二人が可笑しくて堪らない。
ジーンズはベルトでなんとかウェストを調節してはいるが、ワイシャツは外に出すとだぼついてしまい、見た目にもだらし無さ過ぎたので、ジーンズの中に入れられている。
シャツやジーンズの丈も勿論合っていないので、何回か折って着ていた。
肩や腕、足のラインがはっきりしない為か全体的に頼りなげな様子で、それが妙にアレだった。
(彼氏の服着た彼女みたいな…?)
千馗は元から女性のように整った顔立ちなので、一見すれば間違えそうになる。
こういう娘、いるいる、と内心で笑う。
そしてもう一人、燈治は千馗とは違い、垂れ気味の甘い目尻以外は比較的男らしい顔立ちをしているが、今度は逆に、それがイケナイ方面に捉えそうになる。世話になり通しで頭が上がらなくなってる様子といい、事あるごとに服の袖を直す仕草といい、本当にこの渋い店主と何らかの関係がありそうな気がしてしまう。
ビデオやDVDにしたら、マニアに高く売れそうだ。勿論二人とも。
千馗も燈治の姿を見て気付いたらしく、微笑ましく会話をする燈治と店主を複雑そうに見ている。何だろう。この三角関係。
絢人は思わず苦笑した。今の二人になら殴られても良い。
「千馗さん、終わった!」
輪のご機嫌な声に千馗がはっと瞳を瞬かせた。褒めて褒めて、とばかりに笑顔を振り撒く輪に、ぎこちなく笑い返す。危ない。忘れてた。隣を見遣れば、可笑しげに笑いを噛み殺す絢人の姿。
輪の手前我慢するしかない。が、我慢せずに殴った所で、結局彼を喜ばせる結果になるであろうことは明白だった。自分の現状が分からないわけではない。駄目だ。今殴ったら、絢人との間に妙なフラグが立ってしまいそうだ。
絢人の事は好きだが、あくまで友人としてであり、それを越える事はない。俺の心の中には、燈治の入るスペースしか空いていないのだから。
あぁ、それにしても――――
「壇はそうやっていると、マスターのコレみたいだね」
コレ、と小指を立てて笑う絢人に、燈治がコーヒーを吹き出した。な、とか、わ、とか、意味を成さない声を発してわななく。
「香ノ巣っ、てめぇ…!」
「絢人!燈治は俺のだって言ってるだろ!」
「お前のも間違ってるから黙ってろ!」
「勿論千馗も、端から見たら丸っきりコレみたいだよ?」
言い合う三人に輪一人が付いて行けずに、きょろきょろと視線を動かす。すると、店主がやんわりと輪の頭を撫でた。次いで千馗と燈治に視線を投げて小さく笑った。
「部屋なら、空いているぞ?」
「マスター。洒落にならないのでやめて下さい……」
そうか、とさも残念そうに笑う店主に、千馗は思わず燈治を抱き寄せた。あげませんよ、と言えば、壇次第だ、と返される。千馗の腕の中で燈治がむせた。
「燈治…燈治は…………俺のだよな?」
「聞くな!っていうか子供の前で何言ってんださっきから!」
離せ、と千馗の拘束から逃れた燈治は輪を引き寄せた。きょとりと燈治を見上げて首を傾げる輪に頷く。
「輪。両手を耳に当てて目を瞑ってゆっくり百数えろ。ちゃんと出来たらフレンチトースト奢ってやる」
「本当か!」
「絶対に手を離したり目を開けたら駄目だぞ」
「そんなの簡単だ!」
早速、いーち、と数え出した輪にもう一度頷き、燈治は椅子から立ち上がった。
雰囲気を察したのであろう。千馗が、燈治さん?、と愛想笑いを浮かべた。
「いやぁ、暴力反対、です」
「言っても聞かないなら、仕方ねぇと思わねぇ?」
千馗はにっこり笑って見せるが、燈治の薄笑いは納まらない。
千馗はふぅ、と小さく嘆息した。
「仕方ない。もう思いっ切りどうぞ」
いきなり聞き分けが良くなった千馗に片眉を上げる。
燈治がじゃれついてきているぐらいにしか思っていないのか、その表情は若干ニヤついている。
燈治は拳を振り上げた。
「こっちの台詞だよ」
加減なく打たれた拳に千馗が吹っ飛ぶも、揉め事に馴れた店主の顔色は変わらず、ガンガラガッシャンという派手な音も、輪の数を数える、可愛らしい大声に掻き消された。
――――輪にフレンチトーストを奢った上店主に土下座をした千馗は、結局最終的には絢人を殴った。
しかし、とんだとばっちりだ、と言いながらも、決して絢人の表情は嫌そうではなかったとか。
「部屋空いてるぞ」なマスターと、「百数えてろ」な燈治が、書きたかった。あとずぶ濡れな二人(笑)
マスターは勿論冗談です。渋いけど冗談も言えるんだぜ的な(マスターを何だと思っているのか)若者を温かく見守っていて欲しいです。
それと燈治。妹さんがいるというのを設定資料集見て初めて知ったので活用してみました。小さい女の子(?)の扱いに慣れてそう。自分では苦手って言いながら、実際にはそうでもない。しかし、何歳差ですか発表して下さい開発陣。好き勝手しても良いならやりますけれども!
絢人は再登場となりましたが、良いお兄さんっぷりは最初の「余計な手間を~」だけでしたね。残念ですね。どうしてくれよう。
変態。でも良い相談役のお兄さん、という位置づけをしたいのに、変わったお兄さん止まりになってしまいます。変態ですらない。
しっかし、絢人はどうして輪に嫌われないのか不思議で仕方無い。
輪は本当は高一ですが、まるっと無視して動かしました。ちんまい小リスの如く可愛く在れ。彼女こそ正に仲間内のアイドル。
そして七代。いや、うん。なんか、ホント済みません。主人公に夢がある方済みません。でも、もう変更きかないんで…す。
ていうか誰かこのSSの燈治描いて下さらないかしら。だぼだぼ燈治。自分じゃ描けない…。
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