・六太が景麒の世話を焼く話。
・陽子がドライですが、景麒への愛故です。
・尚六前提です。
・引き続き景麒は女々しいです。
・それでも宜しければ続きからどぞ。
暫く厄介になります、と言って下げられた小さな金の頭に、陽子は、はぁ、と間抜けな声を出すしかなかった。
「また突然ですね」
「ばっちりニ月先ぐらいまでの仕事してきたから大丈夫」
軽やかに笑った六太に陽子は、へぇ、と面白そうに腕を組んだ。
「延王と喧嘩でもされました?」
しかし返ってきたのは陽子が期待したような反応ではなく、さあどうだろうな、
と六太の顔には不敵な笑みのみが浮かんだ。
「最近延台輔は景台輔に付きっ切りね」
茶碗にお茶を注ぎながら祥瓊が言った。
陽子は、そうかな、と少し首を傾げ、器に盛られた菓子を一つ取って口に放る。
「一緒にいる姿をよく見るのよ。執務の合間とか、二人だけで何か話してるし」
「流石祥瓊は目敏いな」
「なぁに?いけない?気になるじゃない」
そうだけど、と言って、しかし直ぐに、何でもないんじゃない、と考える事を放棄した陽子に祥瓊は額に手を遣った。呆れた、と言えば、ごめんごめん、とぞんざいな返答。
祥瓊がそれに、むっと眉を寄せると、ころころと笑う声が響いた。
「祥瓊ったら、本当は延王と延台輔の仲が気になっているのでしょう?」
それで聞き耳を立てているのよ、と飴細工の菓子が乗った盆を片手に鈴が部屋に顔を出した。
陽子の向かいの椅子に座り、自らが持ち込んだ飴を口に運ぶ。
「仕方ないじゃない。延台輔のあの思わせ振りな言いようが凄く気になるんだもの。まさかとは思うけど、景台輔に相談しに来てるんじゃないかしら」
「相談?何を?」
「色恋の話よ、陽子。全く祥瓊はそういう話好きね」
「昔はそれくらいしか楽しい事なかったんだもの。もうこれは癖ね。それに鈴だって好きなくせに」
否定はしないわね、と視線を泳がせた鈴に、陽子が、ふぅん、と気の無い声を出した。
「景麒に恋愛相談ねぇ…」
有り得ない、と一蹴し、陽子はまた菓子を一抓み口に放り込んだ。
てくてくと歩く六太の後ろを神妙な顔で付いていく景麒は、するりと六太の足元から現れた使令に眉を顰めた。しかし、小声で何事か話し、直ぐにまた溶けるように使令は姿を消した。
「悪い」
「いえ、宜しいのですか?」
躊躇いがちに掛けられた言葉に、六太は微笑んだ。近寄って景麒の手をぽんぽんと叩く。
「大丈夫」
な?、と笑えば景麒は戸惑いながらもこっくりと頷いた。
それに笑ってまた六太は歩き始めた。
庭園を横切り、庭院の隅に建てられた阿舎に入り、六太は景麒に椅子をすすめた。俺んちじゃないけどな、と笑えば、景麒もくすりと苦笑した。
「どうだ?だいぶ楽になったろう?」
六太は腕を組んで正面に座った景麒を見遣った。一呼吸の後に、はい、とだけ言葉が返る。
その様子に苦笑した六太だったが、ありがとうございました、と頭を下げた景麒に、うん、と一つ笑った。
「これでもお前のお兄ちゃんなんだから、もっと頼って大丈夫だからな」
少し戸惑った後、はい、と素直に返事をした景麒に、六太はにっこりと笑った。
某国の麒麟も可愛いと思ったが、やはり六太にとっては景麒も同じくらい可愛いと思う。
相談したい事がある、と使令越しに言われた時はどうしたものかと思ったが、悩みの種は非常に可愛いものだった。
使令から話しを聞いた限りでは深刻そうだった為、直接出向いて聞く、と仕事を繰り上げて訪ねた。先触れをしていたとは言え、いきなりの他国の宰輔の訪問に、景麒も怒るだろうな、と半ば覚悟していたのだが、出迎えた景麒が至極申し訳なさそうな顔をしていたので、六太は勝手に陽子に当分の逗留願いを出した。きっと長引く、と直感が告げていたから。
「それで、他に何が聞きたい?」
「はい、あの…」
言い淀んだ景麒に六太は先を促した。
今日で逗留五日目だった。
慶に着いたばかりの頃は、まず珍しく情緒不安定気味の景麒を落ち着かせる事から始めた。
酷く意気消沈している弟分は、六太がじっと辛抱強く待っていると、ぽつりとやっと口を開いた。
――――自分が分かりません。
しなければいけないと分かっているのに、主上がお困りになるだろうな、と思うとなかなか言い出せないのです。
例えば政の話だったり、官についてだったり、そして主の行動だったり。
民だけでなく、官吏達の事をも考えている主に、告げる事が出来ない。
流石に政に関わる事は冢宰に相談しつつこなしているが、自由奔放に飛び出して行ってしまう主の事はどうしようもなかった。
王が出歩くなど、と口では言ってみるものの、それは建前でしかなく、本当は――――
それを聞いて、六太はぱちくりと瞬いた。なぁんだ、と内心で呟いて、そして黙り込んだ六太に縮こまってしまった景麒に笑ってやる。
――――景麒は、陽子に置いて行かれて淋しかったんだな。
きょとんと見開かれた瞳は不思議そうな色をしていた。
淋しい、とぽつりと呟いて、そうなのでしょうか、と首を傾げる。
――――陽子が出奔した時、景麒はどう感じた?
――――まず、またか、と思いました。次に主上が残されていった政務の事を考えて、そして……。
そして?、と尋ねると、景麒が眉を寄せた。
――――何故だか、心許ない気分になります。
そう言って項垂れる景麒の両手を撫でて、六太は笑った。
――――景麒、それが淋しいって事だよ。
向けられた視線をしっかり受け止めて、六太は苦笑した。
それは六太にも覚えのある感情だった。胸にぽっかり穴が空いたような、空虚な感覚。
――――勝手なもんだよ王なんて。だから、はっきり言ってやんなきゃ駄目なんだよなぁ。
なんとですか、と素直に問われ、六太はにんまりと笑って首を少し傾けた。
――――素直に言えば良いんだ。今俺に聞いたみたいに、素直に陽子に言えば良いんだよ。淋しいって。
躊躇いがあるのだろう、景麒はまじまじと六太を凝視し沈黙した。しかし少ししてから嘆息しつつこっくりと頷いた姿に、六太も、うん、と目を細めた。
それから六太は景麒に王との付き合い方についてあれやこれや答える事を条件に金波宮に留まった。
反対されるかもという懸念もあったが、景麒も余程切羽詰まっていたのか、わざわざ陽子に景麒からも口添えしてくれたらしかった。名目上は、政治についての意見の交換。
あながち間違えていなかったので六太もそれに従った。
「――陽子は気にしてないようだけど、注意して見て置いた方が良いな」
幾度目かの問に答え終え視線で次を促すと、景麒は一瞬考え込んだ後、真っ直ぐに六太を見た。
「大変不躾な事をお聞きするのですが……初めに延台輔は、素直に言え、と私に仰られましたが、延台輔ご自身は、延王に仰った事はおありになるのですか?」
「あるな。初めの頃は今のお前みたいに言えなかったけど」
「延王は、お聞き下さるのですか?」
「殆どない」
即答され、景麒は俯いた。申し訳ありません、と謝ると、いや、と苦笑が返る。
「全くない訳じゃない。そうだな…弱ってたりするといてくれてるかも」
「弱る?」
「血にあたっていたり、根詰め過ぎて疲れていたりした時。自分じゃ分からないんだが、どうも酷い顔してるらしくて」
苦笑いの顔をまじまじと見遣り、成る程、と頷いた景麒に六太は吹き出した。
「どうせいつもちゃらんぽらんな顔してるさ」
「あ、いえ…」
くつくつと笑う六太に景麒は慌てたように顔を上げた。その顔が本当に慌てていたので、六太も一つ嘆息して笑うのをやめる。
「陽子は大丈夫だよ」
微笑みながら投げられた言葉に景麒は瞬いた。
「景麒だって、そんなに頻繁に言うつもりはないんだろう?それは陽子もきっと分かるだろうから、ちゃんと聞いてくれるさ」
そうだろう?、と顎をしゃくれば、不安そうに眉を寄せた後、しかし、しっかりと景麒は頷いた。
それに頷き返してから、六太はうん、と背伸びをした。
「優しいな、陽子は」
「そう、ですね」
「うちは大変だよ。直ぐに付け上がりやがるんだ。麒麟は敬わないし、何だと思ってるんだか」
六太が盛大に嘆息すると、卓子の下から、台輔、と呼び掛ける声がした。これは景麒にだった。
――――主上がお呼びです。賓客が参られた、と。
賓客?、と景麒が眉を寄せた所で、六太にも使令から声が上がった。
――――台輔、主上がお見えになられました。
女怪の苦笑混じりの声に、は?、と瞬く。が、直ぐさま六太は陰を睨みつけて使令を呼んだ。
「悧角、どうして言わなかった」
一拍の後、主上にとめられました、とこちらも苦笑混じりに返答があった。
「悪い、景麒。うちの馬鹿が来たみたいだ」
額を押さえて呻いた六太に、はい、と応えて、景麒はうっすら笑った。
「延台輔をお迎えにいらっしゃられたようです」
目を点にした六太が、悧角、と低く呼ぶと、是と応えが返る。
六太は忌ま忌ましげに陰を睨みつけ、そして頭を抱えた。卓子に突っ伏し何やら呻いていると、頭上でくすりと笑いが零れた。視線だけ上げれば、細められた瞳にぶつかる。
もう流石に潮時ですね、と嘆息してから、決まり悪そうに視線を泳がせている六太に景麒は口を開いた。
「お優しいですね」
景麒の言葉に更に眉間に皺を寄せた六太は、次いで盛大に嘆息した。
帰る、と立ち上がった六太に、景麒は、はい、とだけ返した。主君が迎えに来たのだ、嬉しくない筈がない。その証拠に、今まで吹かせていた先輩風は形を潜め、外見同様の幼い表情がその顔には浮かんでいる。少なからず気を張っていのだろう。長い間文句一つ言わずに根気よく自分に付き合ってくれた六太に、景麒は本当に心から微笑した。
「延台輔」
「ん?」
「ありがとうございました」
自分の話を聞いてくれただけではなく、自分の為に何日も逗留してくれた事など、全ての事へ対して。
六太は横まで歩いて来た景麒を見上げると、頭の後で両腕を組んだ。
「どう致しまして」
はにかんだ笑顔につられるように笑って、景麒は深々と頭を下げた。
――――その後、効果あり、とだけ使令伝いに届けられた伝言に、雁国の台輔は自らの境遇を心底嘆いたらしい。
六太がお兄ちゃんな話でした。
ちっちゃいんだけど五百歳なんだぜ!、というのをやりたかったんです。麒麟の中では長男なので(因みに宗麟は長女)
六太にして見たら、泰麒も景麒も可愛い弟分なんじゃないかなぁ、と妄想した結果がこれです。皆須らく可愛いんじゃないかな(笑)
初めの方に陽子さん達が出てるのは、うちの陽子さんの景麒に対してのドライな所を見せたかったからです。接し方がドライなだけで、ちゃんと愛はあるのでお願いされたら聞いてくれます。そしてドライだからこそ、後半には顔を出しません(笑)
景麒は段々『頑張って強く見せてる』感が強くなってきていますね。弱々しいですねうちの!六太はちゃんと外じゃしっかりしてるのに。うちの六太は自国じゃ基本若干甘えてる口調なので、外用のちょっぴりの強気口調は楽しいですねー。でも尚隆来たらころりと戻ります。まあ、強気な態度は崩しませんけれどね!
本当、六太がお隣りで良かったね景麒!
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